【理学療法士向け】アキレス腱炎へのアプローチ
アキレス腱について
アキレス腱は、腓腹筋内側頭・外側頭とヒラメ筋の腱が一体となり、踵骨隆起に付着する、人体の中で最大の腱になります。
成人では踵骨の後面に2×2cmの大きさで存在するといわれます。
この腓腹筋とヒラメ筋を合わせて下腿三頭筋といいます。
下腿三頭筋は足関節底屈の作用があり、ランニングやジャンプ、方向転換時の蹴り足側で強く作用し、歩行時には求心性収縮と遠心性収縮が切り替わり、強いストレスが掛かります。
そして、ヒトのアキレス腱は「ねじれ構造」を呈している事で有名です。 ねじれの程度は個別性があり、人それぞれです。
アキレス腱の線維は近位から遠位へ約90°捻れており、近位において内側を走行する線維は遠位では後面に位置します。
ですが先ほどお伝えした通り、個別性が強いのでいろんなパターンがあります。
腱は後脛骨動脈と腓骨動脈の分枝により栄養されます。
腱の近位や遠位は後脛骨動脈に、腱中央部は腓骨動脈により栄養される事が報告されています。
アキレス腱などの腱組織は運動中などの血流は増加するという報告もありますが、基本的に血流が乏しい組織となっています。さらに歳を重ねるごとに身長性も低下していくので、血流もそれに応じて乏しくなります。
このことからもメカニカルストレスや過使用などを起こせば損傷などの可能性も十分起こり得ます。
ちなみに腱の付着部2〜6cm近位部は筋腱移行部や踵骨付着部に比較して血流が少なく、腱の変性が起こりやすいといわれています。
滑液包とパラテノン
アキレス腱の滑走時の摩擦を防ぐものとして滑液包とパラテノンがあります。
アキレス腱の付着部には滑液包が2つ存在し、腱の前方に後踵骨滑液包、腱の後方にアキレス腱滑液包があります。
そしてもう一つ、パラテノンがあります。
アキレス腱には腱鞘が存在しません。その代わり、パラテノンが存在します。
アキレス腱の表層周囲には腱上膜が巡らされています。そしてさらにその周囲にパラテノンが存在します。腱上膜とパラテノンのあいだには組織液の貯留する薄い層があり、腱の滑走時の摩擦を防ぐ構造になっています。
アキレス腱炎とアキレス腱周囲炎
アキレス腱の疼痛を訴える方で、アキレス腱断裂の診断がつかない場合は、
アキレス腱炎とアキレス腱周囲炎などの可能性があります。
そもそもアキレス腱炎とアキレス腱周囲炎の違いってなんなのでしょうか。
アキレス腱炎とは、
アキレス腱、および腱の周囲の炎症を指します。
アキレス腱周囲炎とは、
腱の周り組織の炎症を指します。
つまり、アキレス腱炎ならばアキレス腱周囲炎も含有してしまうという事です。
アキレス腱炎について
アキレス腱の障害では腱実質部と踵骨付着部の障害に分かれます。
腱実質部の障害にはパラテノンに炎症を起こすアキレス腱周囲炎とアキレス腱内に障害の及ぶアキレス腱症があります。もちろんですが両者が合併することも当然あります。
このアキレス腱障害が慢性化すれば変性が起こるため、断裂などの可能性も出てきます。
実際に私も、慢性的なアキレス腱炎から断裂に移行した症例を担当した経験があります。
踵骨付着部の障害では、滑液包炎によるもの、骨隆起や、滑液包のインピンジ、軟部組織の肥厚などが原因で起こるものがあります。
踵骨の後外方の骨性隆起と軟部組織の肥厚はpump bump(Haglund病)ともいわれており、以外と見たことある人はいるのではと思います。
この腱実質部と腱の踵骨付着部のアキレス腱障害を総称してアキレス腱炎といわれています。
アキレス腱炎の原因
・ 後足部アライメントが回内位
・ 後足部アライメントが回外位
この二つのパターンがあります。
まず上記の回内パターンは、後脛骨筋や足部内在筋の機能不全が起こりやすくなります。
アキレス腱は外側に凸の構造を取るために、回内での荷重は伸長ストレスが大きくかかります。なぜ回内位になるかというと、後脛骨筋の機能不全や、X脚などのアライメントによる下行性運動連鎖で起こったりします。
回外パターンは、腓骨筋の機能不全が起こりやすくなります。股関節などによる下行性運動連鎖のものや、腓骨筋の機能不全によって回外足を引き起こす事があります。
アキレス腱炎の歩行の特徴
アキレス腱炎には歩行の特徴があります。
・ 立脚後半相に背屈位での蹴り出しによって生じるパターン
・ 前半相からの早期の体重移動が起こり、底屈モーメントを生じるパターン
前者のパターンは回内位によって起こります。後半相でのヒールレイズに遅れが生じて背屈位での蹴り出しを行います。後者は、回外位を呈する事が多いです。
わかりやすく説明します!
距骨下関節を回内に誘導すると、
・ 立脚期前半が長くなる
・ 足関節背屈誘導
距骨下関節を回外に誘導すると、
・ 立脚期後半への移行を早くする
・ 足関節底屈誘導
こういったルールを理解していることによって、歩行観察もしやすいのではないかと思います。
アキレス腱炎の評価
医者によって診断が決まるのですが、ある程度、セラピストの評価は必要だと思います。それをわかった上で解説していきます。
まずは断裂していないかどうかの判断になります。
もっとも有名なものだとトンプソンテストになります。
筋腹を握っても足関節底屈が出ないと陽性になります。また超音波で確認すれば確定できますが、触診でも断裂部に陥凹がわかります。
アキレス腱炎の評価では超音波によるものやMRIなどの画像検査も用いられます。特にMRIは腱実質部の炎症か、腱周囲の炎症を判別するのに有用です。
超音波はカラードプラの機能を使えば、新生血管などを確認する事ができます。アキレス腱炎では使用されたりします。
またレントゲンでは骨隆起なども評価する事が可能です。
あと、私自身の経験だと、
アキレス腱炎の場合は足踏みでは痛くないけど、歩行すると痛いという特徴があります。それは、遠心性収縮のストレスが強く働くかどうかの影響だと考えられます。
その他にも徒手抵抗を与えるか、ジャンプなどの動作評価をしてもいいかと思います。
また圧痛初見は大事で、滑液包炎なのか腱実質なのかの仮説を検証するのが大事です。
two-finger squeeze test
後踵骨滑液包炎の診断で用いられます。
方法は、踵骨付着部付近のアキレス腱を左右から摘んで押します。痛みがあれば陽性で滑液包炎の可能性を示唆します。
動作評価
動作評価として有用なものは以下になります。
・ 足踏みテスト
・ 片脚立位テスト
・ 片脚スクワットテスト
・ 片脚ジャンプテスト
下の項目ほど、ストレスが高くなるので、どの程度の負荷で疼痛が出現するかを評価することもできます。
またアキレス腱炎は足踏みテストでは痛みが生じない可能性もありますので、片脚ジャンプのような遠心性の収縮が加わるような動作で確かめる必要もあります。
動作の際の足部アライメントを観察するのも重要な評価になります。
アキレス腱炎の特徴として、足部回内やknee-in toe-outを呈する事が多いのでしっかり評価しましょう!
The Foot Posture Index
この評価は、足部形態を視診、触診で正常足、回内(外がえし)足、回外(内がえし)足に分類する方法です。信頼性や妥当性が高くて、点数化する事ができるので、指標として残すことができます。
自然立位姿勢で評価をしていきます。
1. 距骨頭の触診:足関節前方で距骨頭を触診する。回内は内側で、回外は外側で触知できる。
2. 外果の上下の曲線:外果の上下の曲線を触れて、下方のカーブをみて判断。回内にすると外果の下方の曲線が強くなる。
3. 踵骨の回内外:後面から観察し、踵骨の長軸の床面に対する傾きを計測する。
4. 距舟関節の隆起:隆起が目立てば回内、目立たなければ回外位。
5. 内側縦アーチ:カーブが潰れていれば回内、挙がっているなら回外位。
6. 後足部に対する前足部の内転/外転:後方から足趾が見える数を確認。回内なら外側で、回外なら内側で多く観測ができる。
簡単に表にまとめると、こんな感じです。
可動域評価
・ 足関節背屈
・ 股関節伸展
足部回内、足部外転の原因として、足関節背屈制限があります。下腿三頭筋の柔軟性の確認のために、背屈可動域の評価は必須です。
また股関節伸展の可動域も重要になります。
伸展可動域が低下すると立脚後期が短縮してしまうため、その分、立脚初期にストレスが加わります。そのため立脚後期を構築できなくなり、足部での代償が起こるため、足部へのストレスが増加します。
腸腰筋筋力評価
腸腰筋に筋力低下が起こると、立脚後期での股関節伸展時の遠心性収縮を生み出せなくなります。
股関節伸展可動域制限と同様に、立脚後期が作れなくなり、足部による代償が起こり、疼痛を引き起こす可能性があります。
評価の仕方としては、MMTのような徒手検査ロールアップなどの腹筋のような動作による評価、ランジ動作などで評価してもいいと思います。
アキレス腱炎の徒手的介入
・ アキレス腱滑走性向上
・ 下腿三頭筋柔軟性向上
・ 足底筋膜滑走性向上
・ 筋間、筋腱移行部の滑走性向上
これらを主に行います!
アキレス腱は腱自体を把持して大きく動かします。
足底筋膜も同様に、滑りが悪い方向の滑走不全の改善を目指します。足趾伸展させることにより、腱自体が張るので、ストレッチも加える事ができます。
下腿三頭筋は背屈制限が出ないようにストレッチを行います。また、下腿三頭筋の腱移行部や隣り合った筋間の滑走不全も改善する必要があります。
筋力強化訓練
主に腸腰筋エクササイズを行いますが、全身的な複合運動を組み合わせることが多いです。
またプランクなどの体幹トレーニングを行うことで、下肢への荷重をしっかり伝達できるカラダにしていくことが大事になります。
足部パッドを使用したアキレス腱炎の治療
回内のパターンになります。立脚期後半相に遅れが生じて踵離地が遅れるような歩行を呈します。このため、距骨下関節回外誘導、ヒールパッドに加え、横アーチ楔状骨部を高く処方すると、踵離地をより早期に起こさせることができる。
回外のパターンになり、前半相の早期の体重移動が底屈モーメントを大きくしている。このため、ヒールパッドでアキレス腱を緩め第1列背屈誘導や横アーチ中足骨部によって体重の後方移動を促す。
参考文献
1. アキレス腱断裂 診療ガイドライン:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,2007,南江堂
2. 臨床実践 足部・足関節の理学療法:松尾善美、橋本雅至,2017,文光堂
3. 足の痛みクリニカルプラクティス:中村耕三、木下光雄,2011,中山書店
4.アキレス腱障害発生メカニズムの解剖学的検証:江玉 睦明、日本基礎理学療法学雑誌 第20巻2号(2017)
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