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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』34

喧々諤々の議論が始まる。

ウナベスは、いつの間にか
取り出した大きな白板に、
要領よく意見をまとめて書いていった。
コブリは、盟王に代わって論陣を張り、
具体的な意見を述べていく。

その適材適所のさまを末席で見ていた男は、
これが盟王陛下の
「チーム」の強さなのだな、と思った。

大臣ウナベスの息子、
第一王子セイン付きの医師、
ドッゼ・ヤナガである。

彼は、議論がふと止んだ一瞬をとらえて、
挙手した。立ち上がって質問する。

「新しい帝国の、初代皇帝は陛下でしょう。
大公陛下は、その後見人になられる。

では、その後の第二代皇帝は、
ココロン姫のご夫君となられる
リーブル王子なのですか?」

ぴたりと全員が口を閉じて、
ヤナガに視線を集中させた。
この若者は、誰もが関心を持っていながら、
誰もが口に出せなかったことを、
平然とこの場で質問したのであった。

「…控えよ、ヤナガ!
それは先のことだ。
今はまだ、決めることではない!」

ウナベスが、鋭く息子を制した。
じろりとヤナガは父親を見返す。

「『存分に意見を述べよ!』と
最初に言ったのは、
大臣閣下ではございませんか。

盟王陛下。私の父の世代は、
陛下についていけば良かった。
しかしながらその下の世代の者たちは、
誰についていけば良いのでございましょう?

我が国には、第一王子たる
セイン殿下がいらっしゃる。
第二王子のクランべ殿下も、
マオチャ姫も、
ココロン姫もいらっしゃる。

その皆様を差し置いて、
隣国の王子を皇帝として
あえて迎え入れるのですか?」

ヤナガは、禁断の質問を投げ込んだ。
臣下たちは心の中で、
半ばその度胸に呆れていたが、
半ばは「よくぞ聞いてくれた」と称賛している。

たとえすぐではないにしても、
盟王の後を継ぐ者が誰なのか、
いつかは決めなければいけない。
非常に大きな問題である。

…ただ、臣下の大部分は、
すでに選択肢を絞っていた。

消去法である。

セインは病人だ。
クランべには人望が少なく、
しかもすでに、西の
バボン市長の娘と結婚している。
マオチャ姫も同様だ。
東のカシス市長の息子と結婚済み。

残るココロン姫が、北の国の王子と結婚する。
その国と合併をするのなら、
その王子が後を継ぐのが妥当ではないのか?

おそらく盟王陛下のお心も、
そのように決まっているのでは?

コブリは、じろりとヤナガを見る。
このはねっかえりの若造が!
という目つきをしている。
しかしヤナガは動じない。

もちろん彼としても、
病人であるセインに後を継がせる、
という答えを聞くことを
期待しているわけではなかった。
だが、居並ぶ重臣たちの心の中に、
セインや他の実子もいるのだ、
という認識を喚起しておきたかったのだ。

少し沈黙した後で、
盟王はおもむろに口を開いた。

「…俺たちは、一つのチームだ」

先ほどと同じ言葉を、この英雄は口にした。

「人が変われば、チームの色も変わる。
投げて打てる二刀流、
才色兼備の俺様がずっといるのならば、
お前たちとともにこのチームで、
どこまででも行けるだろう。

しかし、いつまでも
同じチームなどあり得ない。

人は変わっていくもの。
ましてや、隣の国と合併するのだ。
チームは変わっていく。
色も変わる。
変わらなければいけないのだ。

その時、どの色の旗を振るのが
一番いいのかは、次の世代が決めること。
そう、ヤナガ、お前たちが自分で決めるのだ。

俺が決めるのは簡単さ。
しかし、上から『こいつが後継者だ』と
一方的に言われて、はい、そうですか、と、
その者に忠誠を誓うのは難しいだろう?」

ヤナガはうなずいた。
父親からの険しい視線を、
気にする素振りすら見せない。

「良い機会である。
ここにいる全員に言っておこう。

リーブル王子は確かに優秀で、
快男児ではある。
しかし、彼を中心に新しいチームを
作るかどうかは、
お前たち全員に選択する権利があるのだ。

自分の人生は自分で決めろ。
自分の目で見極めろ。
バットもボールも道具に過ぎぬ。
バットを振る。ボールを投げる。
それは他の誰でもない、
自分自身の選択と行動であることを忘れるな。
…良いな?」

臣下たちが一斉に頭を下げた。
ヤナガも同じく頭を下げた。
何だかはぐらかされたような気もする。
しかし、盟王自身の口からその言葉を
引き出しただけでも十分だった。

そもそも、一緒にプレーしてみないと、
どんな人となりかはわからない。
まだ、時間はある。

議論は続いていった。
盟王の忠実な臣下たちは語り合った。
意見を戦わせた。

…ヤナガとは円陣の逆側に、
黙々とその議論を聞いていた男がいる。
エーワーン・イナモンという名を持つ
その大貴族は、
様々な思考を脳の中で巡らせていた。

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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