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プロットとストーリー、そして東京へ
人間は、自由に行動する生き物ですよね。
ゆえに、その人間が行動した結果としての
歴史・地理は、予測しづらいものです。
ですが、ある程度の「ことわり」
「理」というものもあります。
ゆえに、ある程度ではありますが、
予測できるものもある。
本記事は、そのあたりの話です。
物語をつくる際にはよく、
『プロット』というものがつくられます。
いわば因果関係、理詰めの設計図です。
〇〇だから、◆◆になった。
「だから」の接続詞でつなぎます。
一方、物語における
『ストーリー』というものは
必ずしも因果関係、理詰めではない。
〇〇があった。そして、◆◆が起こった。
「そして」の接続詞でつなぎます。
優れた物語の作り手の方たちは、
物語の骨格、プロットを組み立てた上で、
観たり読んだり聞いたりする人が
興味を掻き立てられるよう
ストーリーを作っていくのです。
ジブリ映画の名作『魔女の宅急便』の
例を挙げてみましょう。
◆魔女の修行に出る→だから、見知らぬ街に引っ越す
◆空を飛ぶ魔法を生かす→だから、宅急便を始める
◆魔法が使えなくなる→だから、様々な経験を積む
◆魔法が使えないのに友の危機→だから、〇〇
(最後はネタバレ防止のため〇〇)
こういった骨格のプロットを、
その因果関係を必ずしも明示せず、
視聴者が興味を掻き立てるように少しずつ、
ストーリーとして描き出していきます。
「…よくわかりました。
でも、それは創作、フィクションの物語に
あてはまることであって
実際の歴史や地理には
あてはまらないのではありませんか?」
そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。
いや、それがそうでもない。
事実は小説よりも奇なり、と申しまして、
このプロットとストーリーが複雑に絡み合って
成り立っていることが多いのです。
(もちろん全部ではありません)
例えば、と例を挙げましょう。
「東京」という街があります。
大都会です。
ここは昔、江戸、と呼ばれていました。
海にも近い。関東平野で交通も便利。
いま都会ぶりから考えると、
ここに大都会ができたのは「必然」だ。
論理的な帰結、プロットができていた。
必ずそうなっただろう、と錯覚します。
ですが当初は、
関東平野の一つの村に過ぎなかった。
ひとつ歴史の歯車が乱れれば、
依然としてひなびた村であったかも
しれないのです。
「そんなことないでしょう」
そう思いましたか?
では、江戸~東京の成り立ちを見ていきます。
江戸の地に城を築いたのは、
「太田道灌」(おおたどうかん)と
呼ばれる武将だと言われています。
1432~1486年。室町時代の人。
ヒトノヨムナシ1467年が応仁の乱なので、
そのあたりの頃の人です。
城ですから、戦いがないと必要性がない。
太田道灌は、ある戦いのために、
この江戸に城を作った。
それは「享徳の乱」という戦いです。
28年にも及ぶ長い戦乱でした。
関東地方における戦国時代の幕開け、
とも言われています。
1457年に、江戸城が築城される。
しかしじきに、関東地方の大部分は
北条氏が治めることになります。
北条氏の占領する地域の「真ん中」に
江戸城がありました。
城があっても、そんなに利用価値はない。
ゆえに、江戸は、発展しません。
北条氏の本拠地は、小田原です。
小田原や鎌倉のほうが、
街としてはずっと栄えていたんです。
その北条氏が滅びた後、
関東地方に国替えを命じられたのが、
ご存知、徳川家康。
江戸を本拠地として国づくりをしますが、
その時の江戸は、
荒れ果てていた、と言われています。
(注:徳川家の苦労を盛って語るために
若干、脚色が入っている可能性もあります)
茅葺の家が百軒ばかりあるだけ。
しかも海水が差し込む原っぱ。
西南のほうはどこまでのススキ野が続く…。
1590年、築城から100年以上後のこと。
そう、江戸の地は、北条氏には
ほとんど利用されていなかった。
その後、この「荒地」を家康が開拓し、
古びた江戸城を改築して、
その城の近くに城下町を作っていった。
家康が天下を取ったので、
「江戸幕府」の中心地となり、
「参勤交代」で全国各地の大名が
家来と共に訪れるようになった。
明治維新の後にも、東の京都として
「東京」と名を改め、発展していった…。
このように結果だけ「から」見れば、
東京は海にも近く、平野の中で交通の便もよく、
(東京都心自体は意外と坂が多いのですが)
そこに大都市がつくられるのは
「必然」だったかのように錯覚します。
論理的に、プロット的に自然なことだ、と。
しかしもし、太田道灌がいなかったら?
享徳の乱が起きなかったら?
北条氏が滅びずに、家康がやってこなかったら?
家康が天下を取らなかったら?
明治維新によって、京都や大阪が
近代国家の首都になっていたら?
こんにちのような東京の発展はなかった。
色々な人の営み、「偶然」が積み重なって
東京という大都市が生まれた、のです。
大都市が出来上がるプロットの要素に加えて
そこには意外なストーリーがいくつも
折り重なっている…。
まとめていきます。
実際の歴史や地理は、自由に行動する人間が
織り成してきたものですから、
すべてがパズルのようにきちっと
因果関係があてはまるものではありません。
中には偶然に偶然が重なって
できあがった都市、発展した地域、
そういうものがあります。
その意味では、実際の歴史と地理は
プロットとストーリーが
複雑に絡み合ったものだと言えましょう。
ですが、だからと言って、
すべてが偶然で、一からその成り立ちを
解きほぐしていかなければ、という
こともありません。
人間は自然、地の理(ことわり)の上で
生活してきています。
そこには何らかの見えづらい理由、
いわばプロットもあるはず、なのです。
すべてが理詰めだと面白くない。
すべてが偶然だと、予測不可能。
そんな合理と非合理が絡み合った土地の上で、
私たちは生活してきている。
そのプロットとストーリーを解き明かすのは、
とても、面白いものです。
かつ、いろいろなことに、実用できます。
さて、読者の皆様が「いま」いる土地には、
どんなプロットがありますか?
どんなストーリーがあるでしょうか?
…「あなた自身」や「会社」の
プロットやストーリーはいかがですか?
どのような流れで花を咲かせてきましたか?
※本記事は以前に書いた記事の
リライトです↓
『プロットとストーリーの地歴、江戸~東京』
合わせてぜひどうぞ!
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