「銭」は天下の回りもの
1、金勘定漫画
鈴木みそさんの「銭」という漫画があります。
直球ど真ん中ストレートのタイトル。銭(ぜに)。
この漫画の何がすごいかというと、色々な業界の「金勘定」「利益とコストの計算」に斬り込んでいくところです。ここまでひたすらお金の計算をする漫画も、珍しい。世の中には、どうやって利益が出ているのだろう、ビジネスとして成り立つのだろうか、と不思議に思われている業界がたくさんあります。そこにどんどん斬り込んでいく。
こちらのブログ記事では、簡単な全7巻の紹介がされています↓。
その業種も様々で、最初の賠償金の話、出版社の話、アニメ製作の話、コンビニ店舗の話、ゲーセンの話、同人誌の話、カフェの話、ドッグブリーダーの話、声優の話、骨董の話、メイド喫茶の話、エロ本の話、葬儀の話、ホストクラブの話。
コスト計算より業界ルポのような面が強いところもありますし、枕営業の話など作っている(と思いたい)ところなどもあるのですが、それに掛かるコストが赤裸々に計算されていってだいたい「えーっ!?」ってなるのほんとにおもしろい。
本当に面白いと思います。
「出版社」「アニメ」「同人誌」「声優」など、いわば漫画界の身内に関わる業界にもきちんと斬り込んでいるところが良い。「漫画は単行本で読むのと雑誌で読むのとどちらがお得か」「コミケと商業雑誌ではどちらが利益が出るのか」「税務署対策は」など、かなりきわどいところまで触れられています。「大人の社会見学」といった趣があります。
今回は、この「銭」の話から、コンビニとカフェを取り上げます。
2、コンビニの値段
先日のnote記事で、平成とコンビニについて取り上げました↓。
この記事の最後でも、「銭」1巻をオススメしております。この巻では、コンビニの「利益とコストの計算」が赤裸々に行われています。
コンビニと言えば「ロイヤリティ」ですね。フランチャイズチェーンのオーナーが、本部に対して支払うお金。「上納金」と揶揄されることもあります。このロイヤリティを、2017年4月にセブンイレブンが引き下げたことがニュースとなりました↓。
詳しくはこちらの記事をお読みいただければですが、一部引用します(太字引用者)↓。
各店舗のオーナーは、FC加盟店として本部にロイヤリティを支払う代わりに、チェーンの看板を使わせてもらったり、商品の仕入れなどで支援を受けることができる。ただ、本部と加盟店の関係は非常に微妙だ。その理由は、本部と加盟店は常に利益相反を起こすリスクを抱えているからである。
FC制度は外食など他業種でもよく使われているが、成長が頭打ちになり、本部とFCの関係がギクシャクする事例は少なくない。極論するとFC制度というのは、市場が拡大することを前提にしたシステムと考えた方がよいだろう。
セブンは、これまで鈴木敏文前会長によるワンマン経営が続いてきたが、鈴木氏はセブン側の収益低下につながるロイヤリティの減額は絶対に認めなったともいわれる。今回、セブンが聖域であるロイヤリティに手を付けたことは、鈴木氏が退任して経営体制が変わったことと密接に関係している。
だが逆に考えれば、コンビニにとって核心部分であるロイヤリティの見直しを実施しなければならないほど、セブンは追い込まれつつあるともいえる。
店舗が飽和状態になるなど、コンビニのビジネスモデルがそろそろ限界に近づきつつあるというのは以前から指摘されてきたことだが、それでもセブンは何とか好業績を維持してきた。だが今回のロイヤリティの見直しは、コンビニのビジネスモデルが大きく転換する予兆なのかもしれない。
コンビニ経営のキモは「ロイヤリティ」です。本部からどれだけの支援を受け、本部にどれだけのお金を支払うか。セブンイレブンは、「聖域」と呼ばれたロイヤリティに手をつけてでも、生き残りを図っています。市場が拡大していくうちは良かったのですが、すでに飽和状態も近い。出店すれば儲かるという時代ではない。となると、ビジネスモデルを転換しなければいけない。刻々と状況は変化しています。
◆20,260店:セブンイレブン(2017年)
◆13,992店:ローソン(2017年)
◆17,132店:ファミリーマート(2017年)
主要3店で見ても、2017年の時点で、これだけの店舗があるわけですからね。拡大期と飽和期で、同じビジネスモデルは取れない。ましてや「人不足」「働き方改革」の波に洗われていますから…。24時間営業の「不夜城」として、平成時代の生活を象徴していたコンビニ業界も、令和時代に合うように変わっていかなきゃいけない、というところでしょう。
そのヒントとして、コンビニ業界の「北の異端児」と呼ばれる、セイコーマートの戦略をご紹介します。こちらの記事から↓。
記事の最後の部分を、一部引用します(太字引用者)↓。
現在のコンビニ業界では「必要とされている」以上のものを提供し過ぎなのではないですか。必要とされていない時間帯にも営業していたり、必要とされていない地域に新店を出したり、隣にコンビニがあるのにすぐまた隣に出店したり。
直営化についても、24時間営業への柔軟な考えかたも、何か将来を見通してビジネスモデルを変えてきたというわけではないんです。北海道は土地が広くて、人は多くない。配送コストも高い。そんななかで企業としてどう生き残るかを考えたときに、自然にこういう形に変化しただけなんです。
本当の社会インフラであるなら、その社会インフラを支える人々が苦労して泣いているようではいけません。本部と加盟店が共存共栄の関係が崩れているとすれば、もはやコンビニは社会インフラと呼べないのではないでしょうか。
主要3店の関係者にとっては、耳の痛い指摘ではないでしょうか。
◆既存のコンビニ(主要3店)のビジネスモデル
「フランチャイズと高いロイヤリティ」「24時間営業」「拡大路線」
◆セイコーマートのビジネスモデル
「直営店重視」「24時間営業にとらわれない」「無理して出店しない」
コンビニは、いまや社会には欠かせない「インフラ」となっています。「その社会インフラを支える人々が苦労して泣いているようではいけません」と喝破する、セコマ社長の言葉に共感します。コンビニオーナーが経済的にも肉体的にも精神的にも追いつめられて、自殺に追い込まれるようなことがあってはならないと思います。
3、カフェの値段
一方、ある意味でコンビニの対極にあるのが「カフェ」です。
もちろんチェーン店のカフェもたくさんありますが、ここでは「個人経営の1店舗だけのカフェ」を取り上げます。
「銭」では3巻で「カフェの値段」が取り上げられています↓。
オンリーワン。自分の世界観のお店。無理しない。心地よい空間。お客に心からくつろいでもらって、利益は最低限上がればよい…。
個人カフェと言えば、このようなイメージでしょうか。しかし「カフェの値段」では、容赦なくカフェの利益とコストの話がさらされます。趣味的な店が必ず成り立つほど、甘くはないのです。小さなカフェに「占い師」「カフェ経営コンサルタント」など、銭の亡者たちが次々とたかります。
甘い幻想を抱いて、カフェ経営を夢見る方には、とても耳の痛いお話です。だからこそ、開店前には一読すべきお話だと思います。コンビニと同様、カフェオーナーが経済的にも肉体的にも精神的にも追いつめられて、自殺に追い込まれるようなことがあってはならないと思いますので…。
あなたの街には、すぐにできてすぐにつぶれるお店はありませんか?
カフェにしてもラーメン屋にしても、このようなお店はよくありますよね。何のために開店したんだろうというお店。借金増えただけじゃないかというお店。しかしこの「カフェの値段」では、そのようなチャレンジャーがいないと、例えば内装業者や広告会社など、社会に「銭」が回っていかない、という話もありました。興味のある方はぜひご一読を…。
その際に、合わせて読んでいただきたいのがこちら。
「まんがでわかる 絶対成功! ホリエモン式飲食店経営 ~『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』外伝~(1)」です。 三戸政和さんとNICOMICHIHIROさんの著作ですが、堀江貴文さん(ホリエモンさん)が監修されています↓。
ホリエモンさんですか…と色眼鏡で見る方もいるかもですが、この漫画は比較的スッキリ読みやすい。こういうノウハウものは、登場人物が類型的で面白くないものもあったりするのですが、この漫画ではカフェの店長とそのアドバイザーのキャラが立っています。生き生き動いています。
銭の3巻で出てきたような「甘い考え」の店長に、アドバイザー(ホリエモン式の飲食店経営ノウハウを知っている人)が、ビシバシ斬り込む形です。カフェ経営者のみならず、消費者向けの店の経営全般、ひいてはフリーランスなどすべてのビジネスにも共通する部分があると思いますので、よろしければぜひお読みください。
4、客が支持するかどうか
いかがでしたでしょうか? 今回は「銭」を切り口に、コンビニとカフェを取り上げました。
街の経済にしても、地域再生にしても、民間に元気なお店が多い地域は元気なものです。コンビニのようなフランチャイズチェーンであっても、個人経営のカフェであっても、元気なお店があるかどうか。客が支持すれば成り立ち、拡大もできます。そうでなければ閉店です。
まずは良い商品、良い接客、良いサービスが必須。その上で、「銭」や「ホリエモン式~」で語られるような「戦略」が必要です。ただし、そもそも論として、「お店をオープンする一番の決め手は『ロケーション』」と言われるように、「場所決め」や「事前のマーケティング」も大事です。酷寒の地でかき氷屋さんをオープンしても、なかなか支持はされません。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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