蒸気のチクセイ_完成イラスト

同調圧力キラーとしてのロジカルモンスター

1、同調圧力

同じ調子にしろと圧力をかける。

みんなちがってみんないい、の対極。みんなおなじでみんないい。

これが同調圧力です。

個人ではなく複数で働いていると、多かれ少なかれこの同調圧力を感じることがあるのではないかと思います。組織の方向性を統一する。みんなが一致団結して一つの事に当たる。もちろん、この同調圧力が、100%悪いわけではありません。なんでもかんでも反対、俺は好き勝手やらせてもらうぜ、ということを無制限に認めていては、組織が崩壊します。仕事になりません。しかしだからといって、同調圧力がかかり過ぎて、いつも少数意見を封殺してしまうと、重大な事件が起きてしまう可能性もあります。

組織運営とは、良いニュアンスの「一致団結」と、悪いニュアンスの「同調圧力」の上で成り立っていると思います。

今回はこの同調圧力について。

2、ロジカルモンスター

私は先日、note記事でロジカルモンスターについて書きました↓。

ロジカルモンスターは、論理で動きます。AだからB。そこに忖度はありません。良くも悪くも、空気を読みません。同調圧力、何それ?という感じです。剃刀の如く、あたりを切り裂きます。良く言えば「正しいことをきちんと主張する」「正直者」「正論」、悪く言えば「空気を読まない」「和を乱す」「トラブルメーカー」「無法者」です。

ここで1つ、記事を紹介しましょう。窪田順正さんの記事です↓。

ここではまず、「空気を読まない人」が出てきます。一部引用します(太字引用者)↓。

皆さんが属する組織にも必ず1人や2人、「空気を読まない人」がいるのではないか。せっかくチーム内でまとまりかけた話を、「それを言っちゃあおしまいよ」的な意見を出して、ちゃぶ台返しにしてしまう。あるいは、TPOをわきまえない発言や行動をして同僚たちから「それ、今やるか?」とイラッとさせてしまう。
「和」をもってサラリーマンとす、という日本企業の暗黙ルールなどまったく意に介さない、協調性ゼロで自由過ぎる立ち振る舞いをする人のことである。

協調性ゼロで自由過ぎる立ち振る舞いをする人。いますよね。あなたの脳裏には、誰が思い浮かびましたか? 「それを言っちゃあおしまいよ」的な意見を出して、ちゃぶ台返しにしてしまう。ありますよね。え、今まで人の話を聞いていなかったの? いま、それ言うの? あなたの頭の中の論理ではそうなるかもしれないけど、ただそうしたいだけじゃないの?

ただし。

この記事の中では、そのような「空気を読まない人」の有用性が指摘されています。ずばり、このような人が活躍するのは、危機発生時、危機管理です。引用します(太字引用者)↓。

ただ、報道対策アドバイザーとしてさまざまな組織の「危機」の現場を間近に見てきた立場で言わせていただくと、これは「空気を読まない人」への正しい評価ではない。確かに、彼らは日常業務の中ではいろいろな軋轢(あつれき)を生み出すかもしれないが、危機発生時には必要不可欠な人材である。
むしろ、「空気を読む人」のほうが「トラブルメーカー」になってしまう。なぜなら「同調圧力」に流れやすいので現実から目を背けがちで、事態を取り返しのつかないほど悪化させてしまうケースが多々あるからだ。

危機発生時とはどういう時なのか? 「空気を読む人」のほうが現実から目を背けて、事態を取り返しのつかないほど悪化させてしまうとは、どのようなケースなのか?

記事では、2017年12月11日に起きた「のぞみ34号」の事故が、例として挙げられています(太字引用者)↓。

博多発、東京行きの新幹線「のぞみ34号」が、台車に14センチの亀裂が入ったまま走行。あと3センチ亀裂が進めば完全に破断していたというもので、かなり早くから「焦げたような匂い」や、「モヤ」「異音」を確認して、東京の総合指令所にも報告されていたものの、車両点検をすることなく、そのまま運行が継続されたことが問題とされた。
世界に誇る安全性と正確さで知られる新幹線を運行するエリートたちが、なぜこんな「雑」な判断をしたのか。多くの人は首をかしげるだろうが、筆者からすると典型的な「空気を読む人」が陥りやすいヒューマンエラーと言わざるを得ない。

この事故を覚えている方も多いのではないでしょうか。色々な方が、色々な考察をされています。例えばこちらも↓。

詳細は各記事を読んでいただければですが、要するに、「空気を読む人」が空気を読んで危機を放置してしまった結果、重大インシデント(深刻な事故)に発展してしまったということです。

このような時には、「空気を読まない人」、良く言えば「正しいことをきちんと主張する」人が必要です。「空気を読む人」がその意見を取り上げなかった結果、大変なことになった。そのやりとりを引用します↓。

車両保守担当:臭いはあんまりしない。音が激しい。自分の見解としては床下点検をしたいけど余裕はないよね。
運用指令員:(走行に)支障はあるんですか。
車両保守担当:そこまではいかないと思うんだけど、(床下を)見ていないので現象が分からない。
さらに、新神戸駅で降車して車両を確認した後もこんなやりとりが記録されている。
運用指令員:何回も聞いていると思うが、今のところ走行に支障があるという感じではないということですよね。
車両保守担当:判断はできかねるんで、走行に異常はないとは言い切れない。通常とは違う状態であることは間違いないと思う。

運用指令員と車両保守担当は、どちらも「空気を読む人」だったのでしょう。何となく危機はかぎとっていた。しかし、結果として、車両をこのまま走らせることを優先した。決断を先延ばしにしてしまった。床下点検をすると車両を止めることになる。遅延する。ダイヤが乱れる。多くのサラリーマンたちの予定が狂う。非難殺到。そのような事態を思い浮かべて、あえて「空気を読んで」しまったのでしょう。その結果、床下点検をするために車両を止める以上の、深刻な事態に発展してしまった↓。

ただ、保守担当側は困惑するだろう。判断を仰いだと思ったら逆に判断を求められるからだ。こういうチグハグなやりとりが続く中で問題が先送りされ、台車の亀裂が1センチ、また1センチと広がっていったというわけだ。
もうお分かりだろう。これが「空気を読む人」が「危機」に向かない理由である。

記事ではこのように書かれています。

「空気を読む人」は、「危機」には向かないのです。

3、平時の管理と乱世の決断

さて、ここで整理しましょう。

空気を読む人=同調圧力=和を重んじる=危機には向かない
空気を読まない人=ロジカルモンスター=論理を重んじる=危機に向く

言い換えればこうとも言えます。

空気を読む人=一致団結=平時には向く
空気を読まない人=トラブルメーカー=平時には向かない

いったいどちらなんだ! これは、どちらにも言えるのです。

すなわち、物事がうまく行っているとき、何事もない「平時」には、空気を読む人の論理が空気を満たし、一致団結していて同調圧力は強まります。少数の空気を読まない人が、何を言っても知らぬ顔、トラブルメーカー扱いされて、そのまま状況が続きます。

逆に、物事がうまく行っていないとき、何かが起きている「乱世」には、空気を読む人の論理が、逆に深刻な事態を引き起こしてしまいます。空気を読む人が、逆にトラブルメーカーになってしまいます。少数の空気を読まない人、ロジカルモンスターの出番です。それまで何となく「正しいこと」とされてきたことを疑い、論理によって決断する。勇気をもって決断する。そういうことが求められます。

童話「裸の王様」では、子どもが「王様は裸だ!」と叫びました。同じく童話の「オオカミ少年」では、嘘をつきすぎた少年が、いざという危機に誰にも信じてもらえませんでした。このあたりのバランスも難しい。

『ロジカルモンスターの剃刀』の記事の中で、私が紹介した海堂尊さんの「チーム・バチスタの栄光」では、まさに平時を装った「乱世」、重大な事件の起きている事態に、ロジカルモンスターが舞い降りて、快刀乱麻を断つがごとく事件を解決に導きます。未読の方はぜひ↓。

この小説の素晴らしいところは、平時を装った「乱世」、一見すると重大な事件が起こっていない状況を、鮮やかに書き出している点です。ここにリアリティがあります。誰の目にも明らかな異常事態であれば、危機管理をするのが当たり前になります。そうではない。一見、ただの避けられない事故、殺人事件ではないのではないかと思わせる絶秒のバランス、騒ぎ立てる人がトラブルメーカー扱いされる同調圧力、このような背景が書かれています。

実際、現実の社会ではこのような状況がほとんどですよね。

2017年12月11日に起きた「のぞみ34号」の事故でも、もっと早くに処置しておけば重大インシデントにはならなかった。後付けで考えればそうです。

しかし、白黒がはっきりしていない現状で、すなわち平時を装った「乱世」で、決断していくことがいかに難しいことか。いかに勇気がいることか。はっきりわかる「乱世」ならやりたい放題でも、「平時」には同調圧力の方が強く、決断がしにくいのです。

窪田順正さんの記事では、「空気を読まない人」の役割が、このように表現されています。引用します(太字引用者)↓。

しかし、「空気を読まない人」は違う。彼らはそもそも、こういう立ち振る舞いをすれば評価が上がる、という組織人としてのセンサーが働かないので、「同調圧力」にもピンとこない。「空気を読む人」が飲み込んだことも平気でズバズバ言ってくれるのだ。
「これどう考えても不正でしょ。なんで世の中やお客さんにちゃんと説明しないの?」
こういう場面を目にしたのは一度や二度ではない。つまり、「空気を読まない人」は、内部論理で我を見失った組織を「正気」に戻す、という大事な役割があるのだ。

内部論理で我を見失った組織を正気に戻す。その通り!

「空気を読まない人」=「ロジカルモンスター」は、危機にこそ、乱世にこそ輝くのです。

少し昔の話になりますが、茨城県出身の政治家で梶山静六(かじやませいろく)さんがいました。自民党の竹下派全盛期には、当時の会長であった金丸信(かねまるしん)さんから、こう言われていたそうです。「無事の橋本、平時の羽田、乱世の小沢、大乱世の梶山」と。

ちなみに、この梶山静六さんを政治の師として仰いでいるのが、いまの官房長官、菅義偉(すがよしひで)さんです。安倍総理大臣の「一強」という「平時」にあって、「乱世」的な視点、ずばずば(自分の組み立てた論理に従って)正しいと判断したことを行って乱世の目を摘む、官房長官という立場で危機管理に向いている人なのかな?とも思いました。

4、管理に優れたリーダーは使いこなす

いかがでしたでしょうか? 今回の記事は「同調圧力」から始まり、「ロジカルモンスターとその有用性」について書いてみました。

最後に、窪田順正さんの記事のまとめを引用します。ぜひこの記事は、全文を読んで頂きたいです(太字引用者)↓。

組織の中で長いこと「空気を読む人」として立ち回っていると、不正を不正として追及するという当たり前のこともできなくなってしまう、象徴的なケースだ。こういう組織の暴走を阻むために、「空気を読まない人」がいるのだ。皆さんの会社でも社内で疎まれている「空気を読まない人」の新しい人材活用法を考えてみてはいかがだろうか。

管理に優れたリーダー(権力者)は、同調圧力の暴走にも和せず、正しいことは正しいと言うロジカルモンスターを、うまく活用しているものです。私も先日、このような記事を書いて「適材適所」の見本を紹介しました↓。

のぞみの事故の話を例として挙げましたので、この記事の締めとして、鉄道マンの心意気を描いた漫画を紹介して、終わります。

池田邦彦さんの「カレチ」です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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