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1、ロジカルモンスター

海堂尊さんの「チーム・バチスタの栄光」を読んだことはありますか? 

このシリーズはベストセラー、ドラマ化や映画化もされているので、映像で触れた方も多いかもしれません。その原点、最初が本書。もし、原作をまだ読んでいない方は、ぜひ。文庫版は上下巻です↓。

この作品の魅力は、何といっても「ズバリ斬るわよ」的なロジカルモンスター(論理怪獣)、白鳥圭輔の存在でしょう。快刀乱麻を断つをごとく、正攻法では解けなかった謎を、ロジックを駆使して解決に導く。

文庫版では、下巻の最初から登場します。これは作者も意図してだと思いますが、彼が出現する前と後とでは、違う作品と思えるほどの鮮やかな転換です。章題には、写真の「ネガ」と「ポジ」という名前が与えられています。まさに黒が白に反転するかのようです↓。

この記事では、「ロジカルモンスター」について考えます。

2、知恵者の末路

もう1つ、小説を挙げましょう。

司馬遼太郎さんの名作「国盗り物語」では、斎藤道三と織田信長・明智光秀たちが主人公です。特に最初は斎藤道三が大活躍。そう、あの美濃国(岐阜県)を自分自身の才覚で奪ったと言われる戦国大名です↓。

斎藤道三は、現代で言えば一流大学の大学院に相当する、お寺の学僧でした。ついた異名が「知恵第一の法蓮房」。ロジカルモンスターみたいなものです。彼は還俗して、あるお店を乗っ取り、美濃国の守護大名に取り入り、ついには美濃国自体を乗っ取ります。言わば「下剋上ピカレスクロマン」なのですが、最後には謀反で討ち死にしてしまいます。

「チーム・バチスタの栄光」の白鳥圭輔は、殺人事件の名探偵として現場に現れます。ミッションを解決するのが目的であり、(この作品では)組織を立て直すのが目的ではありません。むしろ、外部の第三者的な立場を縦横に駆使して、情実にからんだ組織の闇に迫ります。彼が暴いた傷跡は、開いたままで出血します。もちろん、確信的な行動です。壊すのが彼の役割。もう1人の主人公、田口は、現場にいるからこそ真相が見えなかったのです。田口は、白鳥が剃刀で切り裂いた傷を(本作品のあとで)治す役割です。

「国盗り物語」の斎藤道三は、下剋上の権化として大活躍します。あの手この手で美濃国を乗っ取る。それが目的であり、見事に達成します。外部の第三者的な立場から、現場に入り込み、自分の組織を作っていく。しかし彼は、新たなリーダーとして組織をまとめなければいけません。外敵と戦い、内部を改革する中で、見えない抵抗勢力が育ってきていました。剃刀で無理に切り裂いた傷は、治ったかに見えて、実は致命傷となっていきます。最後は謀反により、自分自身が殺されてしまいます。

何が言いたいのかというと、ロジカルモンスターは知恵があり過ぎるがゆえに、周りを傷つける可能性が高い、ということです。物事の闇を暴いたり、見える化したりするのにはうってつけなのですが、人と協調してともに物事を実行していく際には、落とし穴にはまることも多い。

もう1つ、事例を紹介しましょう。

鹿島晋さんのブログ「はたらくことの意味は、だいたいドラッカーが教えてくれた」の記事に、「ロジカルモンスター社員」の話が出てきます↓。

詳細は記事を読んで頂ければですが、ロジカルモンスターの社員がその剃刀で組織をズタズタにしてしまった、という話です。

切れ味が良すぎると、相手は傷つきます。うまく鞘に収まれば良いですが、刃がむき出しでは危険すぎる。もちろん、白鳥における田口のように、ナイスコンビとなれれば良いのですが、そのようなコンビが組めなかったり、組織の目的に合わなかったりすると、ダメージのほうが大きくなります。

ちなみに鹿島晋さんは、「Dラボ」でドラッカーのマネジメントをベースにコンサルタントでもご活躍中ですので、よろしければご覧ください。痛みを含む経営経験をお持ちの方は、お話に実感があります↓。

3、知恵と力と行動とスポンサー

先日の記事でも取り上げた、三枝匡さんの「V字回復の経営」では、このような記述があります↓。

一部を引用しましょう。

経営改革はスポンサー役(香川社長)、力のリーダー(黒岩莞太)、智のリーダー(五十嵐直樹)、動のリーダー(川端祐二)の四人が揃わない限り、成功を収めることはできない。

言い方を変えれば、「知恵」だけではダメ。「知恵と力と行動とスポンサー」が揃わないとダメだ、ということです。

「そんなん、揃う方が珍しいのじゃないか」と思う方に、三枝さんはちゃんとフォローされています。

たとえば、「ウチの会社では『黒岩莞太』の役割を専務が四割、事業部長が六割の組み合わせで満たすことができる」という読み方をすればよいのだ。
あるいは逆に、「ウチの副社長は『香川五郎』の要素を六割、『黒岩莞太』の要素を三割、『五十嵐直樹』の要素を一割持っている人だ」といった見方をすることだ。

分割でも良いのです。1人がいくつか兼ねても良いのです。

木下斉さんの『凡人のための地域再生入門』でも、主要人物の2人がうまく補い合って、地域再生に取り組んでいます。

要は、剃刀も使い方次第、チームで適材適所で活かしていかないと、逆に組織にとってはダメージが残ることもある、ということです。

4、知らないうちに剃刀になっていませんか?

いかがでしたでしょうか? この記事では「ロジカルモンスター」という剃刀について取り上げました。

note記事を書いたり読んだりする方は、意識が高い、意欲にあふれた方が多いと思います。

知らず知らずのうちに、その切れ味が増していきます。

その切っ先が、いつしか人を傷つけることもあるかもしれない。私自身の自戒を込めて、この記事を書きました。ピン芸人では、芸風に限りがあります。コンビ芸人だと、うまく補えます。ましてや組織では…。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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