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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』23

4、見えない敵カフィー

イナモンとランプは、
大広間のテーブルで、姉と妹の対話が
終わるのを待っていた。

他の従者たちには、
聞かせられない話もある。
彼らには待合室で
待機しているように指示して、
ロッカに案内を頼み、
部屋の外に出させた。

残るのは、双子のもう一人、
スタンだけだ。
三人だけの大広間で、
イナモンはランプに聞いた。

「…おい、なんで今日、ミシェルさんは、
昼の『青いミシェル』の姿なんだ?
せっかくの妹君とのご対面なんだぞ。
優雅な夜の『赤いミシェル』でも
いいだろうに」

イナモンは、彼女が
青い作業着の「バラの職人」と、
艶やかな赤いドレスの「魔性の女」、
二つの顔を
使い分けていることを知っている。

妹に会うのに
「魔性の女」である必要はない。
しかし、何もわざわざ
「バラの職人」の姿で
会う必要もないではないか。
他の姿は無かったのだろうか?

当然のイナモンの疑問に、
ランプが澄まして答える。

「姉さんも、あれはあれで
変わろうとしているのさ。
バラに向き合っちまうと、
他の何も目に入らなくなって、
ただ研究に没頭してしまう。
そんな自分の特性を『直す』のではなく、
『活用』しようとしているんだ。

気合いを入れて誰かに向かい合う時には、
『バラの職人』のままで
話すようにしているようでね。

姉さんは、基本、人に優しい。
鋭く斬り込んでいく役の俺がいない、
一対一の場面では、特に。

今回は女同士、
一対一でしっかりと話したい、
というから、あえて
『青いミシェル』で臨んでいるのさ」

「…お前も、夜の『黒いランプ』と、
昼の『白いランプ』とじゃ、
だいぶスタイルが違うからな。
以前、タスクスが言っていたぞ。
足して二で割ればちょうどいいのに、と」

「ふん、それじゃあ灰色になっちまう。
仮面はさ、うまく付け替えるからいいんだ。
ただ、姉さんは今まで『何かが憑依する』、
そんな感じで自分の切り替えをしてきた人だ。
俺は意識的に変えているんだが、
姉さんは無意識のことも多い。
それを克服しようとしている」

イナモンは、ふう、とため息をつくと、
ぬるくなったお茶を飲み干した。
小間使いのスタンが絶妙の間で、
熱いお茶を入れてくれる。
彼に礼を言って、
ランプに再び問いかけた。

「ミシェルさんの現状分析と先読みの力は、
この国でも随一だ。
盟王陛下や監督も鋭いが、彼女はまた別格だ。

…決勝で姫の正体をばらしたのも、
結婚の話を公表したのも、
彼女からの献策だったんだろ?
わざと事前に公表して、
敵の出方をうかがう…」

「イナモン。お前に隠しても無駄だな。
その通りだ。…わかってるじゃないか」

「今の俺は教育係だが、
将軍の一人でもある。
敵と戦う、国を守る、
それが本業なんでね。

ましてや、盟王陛下には
我がエーワーン家を過分なまでに
評価していただいている。
その御恩には報いなければならない。

国家の一大事業である
王族同士の結婚に力を尽くす。
それが俺の今やるべきことだ。
となれば、できるだけ
裏の事情も考えてしかるべき」

「…そこまで言うからには、お前さ、
『見えない』敵たちの目星も、
ついているんだろ?」

「ああ。各都市の支配者層。
古貴族。向こうの貴族たち」

イナモンは、ココロンと
同じように答えた。
しかし、そこからが違う。

「彼らは言わば『見える敵』だ。
ゆえに、対処もしやすい。
反乱を起こそうとしても、すぐに分かる。
こちらにばれる。

問題は『見えない敵』だ。
つまり、盟王陛下に面従腹背、
味方面をしておきながら、
裏では『見える敵』を支援して、
対立を煽るような奴らさ」

ランプは、感心したように
イナモンの顔を見直した。

「ほほう、相変わらず、鋭いな。
それで、具体的に、
見えない敵は誰だと思う?」

「…外国から来ている商会の奴らだ。
マカロン商会、カルダモン商会、
ニューグリーン商会。

いずれもローガンやマネーブの故郷、
ディッシュ大陸の北西部から
来ている商人たちの組織だ。
彼らは自分の本拠地、
商会の利益を第一として動く。
そのため、自分たちの利益になる者と
手を組み、暗躍する。
利益が出るうちはいいだろう。
しかし、無くなれば敵に回る」

「それぞれの商会が
手を組んでいる相手が違う、ということも
知っているんだろ?」

「ああ。盟王陛下は今、マカロン商会と
がっちり手を組んでいる。
キュシェ川の分水工事を請け負った
タダック卿は、商会の商館長、
マカロン・カヌーレ殿の紹介によって、
この国に招聘された。

彼らからすれば、このまま陛下が
二つの国をまとめ上げて、
自分たちで貿易を独占できれば万々歳。
つまり、マカロン商会はこちらの味方だ。

…現時点では、だがな」

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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか

◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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