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長編小説『凸凹バラ「ストロングリリーフ」ミシェルとランプ』37
3、若きクワス市長
イナモンは海を眺めている。
ここは、ローズシティ連盟で
一番大きな港。
南方の都市、ダマクワスである。
彼の横にはクワス市長が立っていた。
…まだ若い。
「…アキナス卿。ご助力に、感謝申し上げる」
「なんの、球場で戦った
『球友』の頼みとあれば断れぬ。
ましてや盟王陛下じきじきの
特命を負ったということであれば、
このダマクワス、
総力を挙げて協力いたしますぞ」
「先代のクワス市長の葬儀には
出られなくて、申し訳なかった。
あの時はまだ、モスミルコで軍務、
ピノグリア大公国で外務にと、
陛下にこき使われていたんでね」
「お気になさるな。
亡くなった先代も、陛下やイナモン卿、
それにココロン姫たちと
球場で戦えたあの試合のことを、
亡くなる間際まで楽しそうに語っておったわ」
彼の名はクワス・アキナス。
彼の父親、先代のクワス市長は、
三年前に盟王率いる首都連合チームと
野球の特別試合を戦い、敗れていた。
誰にも口外していなかったが、
その時にはすでに身体が
病魔に侵されていた、という。
彼は試合後、盟王の政策に協力した。
国内を南北に貫く「センターライン」、
首都と強固な結びつきの土台をつくり、
試合の一年後に息を引き取った。
アキナスが、若きクワス市長として
彼の後を継いでいるのだ。
「盟王陛下は、このダマクワスを
貿易の中心地として、重要視されておられる。
ピノグリア大公国との同盟も強固になっていく。
この街が占める立場は、ますます大きくなるぞ」
「ありがたいことである。
だが、イナモン卿…」
アキナスは、疑問を口にする。
イナモンは、彼の顔を見つめた。
父親に似て、筋骨隆々とした巨漢。
もじゃっとした黒髪は、
どことなく黒牛を連想させる。
市長の座を継いで約二年の間に、
だいぶ風格も備わってきたようである。
「ダマクワスは、まだいい。
北の旧ケテコリマ、モダローズも
発展していくだろう。
だが、北西のモスミルコ、
東のガリカシス、西のアルバボン。
この三つの都市は我が国の
『センターライン』から外れている。
盟王陛下は、
いかにおまとめなさるおつもりか…?」
「心配はご無用」
イナモンは、クワス市長の懸念を一蹴した。
「モスミルコは、同盟を結んだことによって
北からの脅威が取り除かれた。
今ではピノグリア大公国の西部にある都市、
カベルーネとの結びつきを深めている。
あそこは、さらに砂漠を抜ける
『オアシスロード』にもつながる。
未知の将来性に富んでいるはずだ」
「…東と西は?」
「盟王陛下のお子、
第二王子のクランべ殿下と、マオチャ姫が、
それぞれの市長のお子と結婚されている。
それぞれ、子どもも生まれた、と聞いている。
…可愛い孫のためにも、市長たちは
盟王陛下に忠誠を尽くすだろうさ」
腕組みをして考え込んだクワス市長は、
しばらく迷っているようだったが、
重そうな口を開いた。
その巨体に似合わぬ、
ひそやかな声で聞いてくる。
「…盟王陛下は、将来的には五大都市を
すべて、ご自身の直轄地に
なされるおつもりではないのか?
それぞれの都市を治める
市長の一族たちを排除して、
自分の家臣を代官として派遣する。
イナモン卿が今回、
我が街に派遣されたのは、
その下ごしらえでは?」
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『凸凹バラ「ストロングリリーフ」
ミシェルとランプ』
作:ヒストジオいなお
絵:中林まどか
◇この物語は、フィクションです。
◇noteにも転載していきます。
◇リアクションやコメントをぜひ!
◇前作『凸凹バラ姉弟
ミシェルとランプ』の続編です。
(全6章のうち、5章まで公開)
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