銭と欲望の不夜城 ~平成とコンビニ~
1、コンビニの働き方改革
便利なコンビニ。24時間営業。年中無休。
しかしこのコンビニにも「働き方改革」の波が押し寄せているそうです。
コンビニの労働環境は、少し考えただけでも過酷ですよね。いくら深夜バイトを雇っても、緊急事態には店長が対応せざるをえない。「24時間営業・年中無休」の旗印のもと、これまで命を削って働いてきたコンビニオーナーはたくさんいます。例えばこちらをご参照ください↓。
しかし、さすがに令和時代を迎えて、このスタイルが本当に良いのかを、真剣に考えるべき時期に来たのかもしれません。
今回は、コンビニの話です。
2、全国津々浦々へ
まず、コンビニの数の推移を見てみましょう↓。
この記事によると、1989年(平成元年)頃には約20,000店だった「主要7社」のコンビニは、2018年(平成30年)頃には約55,000店に増えています。主要7社のコンビニが、3倍弱も増えているのです。1990年代に急激に店舗数が増加、2000年代になってしばらく横ばいですが、2000年代後半からはまた少しずつ店舗数が増加し、2010年代になるとさらに増加速度が増しています。これは、たくさんの種類のあったコンビニが合従連衡を繰り返し、徐々に大規模なブランドに統一されていった過程と重なります。
では、主要7社の中でも、特に主要3社と言われる、セブンイレブン・ローソン・ファミリーマートの店舗数はどうでしょうか。3社合わせて約50,000店(2017年)ですが…。
◆20,260店:セブンイレブン(2017年)
◆13,992店:ローソン(2017年)
◆17,132店:ファミリーマート(2017年)
ファミマがローソンより多いんだ?と意外に思われたかもしれません。これは、2016年9月に「サークルKサンクス」のユニーグループとファミマが経営統合して「ファミリーマート」へと統一されたためです。コンビニ業界は主要3社を中心に、経営統合の歴史を踏まえて、熾烈な競争が繰り広げられています。
いまや、日本全国津々浦々、どこに行ってもコンビニがある状態です。青いカンバンで有名なローソンは、甲子園球場の近くに黄色と黒の「虎ローソン」、広島には「赤ローソン」を出店しているようですが…↓。
このように例外的に地域色を出しているコンビニもありますが、基本、中身は全国統一。平成のコンビニ戦国時代を経て、いよいよ全国統一される前夜と言っても過言ではかもしれません(独占禁止法もあるので、何社かで分け合うでしょうが…)。
3、コンビニエンスストアがつなぐ共同性
では、昭和から平成に変わる頃、つまり1989年前後の状況はどうだったのでしょうか? その頃に書かれた本から紹介しましょう。
浅羽通明さんの『天使の王国 平成の精神史的起源』です。この本の中に、「灯り続ける商品の不夜城 -コンビニエンスストアがつなぐ共同性」というコンビニを論じた一文があります↓。
ここから一部、部分的に引用します。
「八七年の段階で、セブンイレブンは三千店。ローソン&サンチェーンは二千五百店、ファミリーマートは千店を突破する。八八年には全国のCVSの総店数は四万から五万に達しているという。これは、全国の交番もしくは郵便局の総数に等しい」
総店数は、1988年の段階で40,000~50,000くらいはあったんですね! そこから「主要3社」が、平成時代に各地のコンビニを自社ブランドに加盟させていった過程が見てとれます。
「かつて、北端と南端では言語疎通すら困難だった多様な自然と文化を持つこの列島に、小学校が、電信機が、鉄道が、軍隊駐屯地が、ふり撒かれた転形期があった。空と地下を電話や上下水道の網が覆い、同じ型の団地が増殖していった転形期もあった。近代という均一大衆社会の均一がそこを発信基地として広がっていった」
この引用部分を補足説明すると、江戸時代には、津軽藩(青森県)と薩摩藩(鹿児島県)の藩士は互いに言っていることがわからず、筆談で話したとも言います。それが、明治時代になって「文明開化」の名のもとに、「統一された日本語」が小学校を介して普及しました。昭和の高度経済成長期には、団地が各地が作られ、同じ生活スタイルが普及していきました。
「伝統社会をも自然をも征服したシステムに支えられていま、私たちは生きている。かつて学校と鉄道と電信という〈便利(コンビニエンス)〉に対して、それらに破壊される伝統社会を守るため、百姓たちは一揆に起ち上がった。しかし、現在高度消費社会の中で私たちは〈便利(コンビニエンス)〉に抗すべき自律的欲望をすっかり衰弱させてしまっている」
確かにその通りだと思います。コンビニ新規開店に際して、歓迎するイメージはありますが、反対運動が起きるイメージはあまりありません。近くの商店街やスーパーの経営者は反対するかもしれませんが…。
※ちなみに、ネタバレで申し訳ないですが、堀尾省太さんの漫画『ゴールデンゴールド』の中では、田舎でオープンしたコンビニに対して、旧来のスーパーの経営者が嫌がらせをする描写があります。ちょっとホラー要素がありますので、心臓の弱い方はご注意を…↓。
それにしてもコンビニが人を惹きつける魔力は、すさまじいものがあります。おでんやおにぎりが深夜でも買えることだけで感動した出店当初に比べて、現在のコンビニは「何でもできちゃうんじゃないか?!」と錯覚するほどサービスが充実しています。この圧倒的で悪魔的な〈便利(コンビニエンス)〉に対抗する理由も気力も、消費者は持ち合わせていないのではないか。冒頭で述べたように、対抗の声を挙げるのは、「24時間営業・年中無休」を黙々と支え続けてきた、現場経営者のコンビニオーナーの皆さんだけ。その声も、肥大し続ける本部の経営陣に届くのかどうか…。
平成時代と「コンビ」になって歩んできたコンビニ。
その消費者である私たちは、商品を買う時に、少しでも、その流通を支えるコンビニオーナー、店員、本部社員、配送業者、製造業者などの方たちの労働に、思いを馳せるべきかなと思います。そんなことを考えながら、私は今日もコンビニコーヒーを飲むのです(それにしても、この店内で挽くコーヒーサービスを最初に考え出した人は、天才かつ悪魔的ですね…)。
4、究極的には「銭」の論理
ここまで、平成のコンビニについて、働き方改革・推移データ・浅羽通明さんの文章を通して、考察してみました。
もし、もう少し踏み込んだ内容を知りたい方は、前述した浅羽さんの『天使の王国』や、下記の鈴木みそさんの漫画『銭』1巻をお読み頂くと、よりディープなコンビニの側面が垣間見れると思います↓。
※ご紹介した堀尾省太さんの漫画『ゴールデンゴールド』も、怖いですがページをめくる手が止まらない名作ですのでぜひ!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。