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誰かに物語られるには、キャラが重要です。

例えば『三国志演義』という物語がある。
「正史」をベースにしてはいますが、
話がかなり「盛られて」いますよね。

実際には梟雄、小悪党だと言われる劉備は
大悪党の曹操と対比して
品行方正で儒教的な良い子になる。
関羽や張飛は、無敵の大豪傑。
諸葛孔明は「天才軍師」になります。

しかし本来の孔明は
厳格な法家の官吏に過ぎなかったと言われ、
(むしろ劉備の蜀獲りにおいては
「法正」のほうが名軍師)
『赤壁の戦い』で「風を起こす」などの
スーパー魔術は使えないのです。

この孔明は劉備達亡き後の
演義という物語の主人公格なので
「主人公補正」がされている。
そのチートぶりを見せつけるために
「南蛮平定編」などの
物語が演義では加えられている…。

ともかく、物語はドラマですから
強烈なキャラがいないと
人の心には刺さりにくいし
記憶にも残らない、ということですね。

「…でも、現実にそういう人や事績が
なかったらどうするんでしょう?」

後世の人、あるいは「作者」が
『脚色』をすることになります。
孔明の「風を吹かせる」と同じ。

さて、日本の「明治維新」という
「物語」において、
もっとも「盛られている」人物の中に
坂本龍馬、という人がいます。

本記事では彼に対する
「物語」とそのキャラが生み出された
あれこれについて書いてみたいと思います。

坂本龍馬。さかもとりょうま。

1836年~1867年。
30年余りの短い生涯を過ごした人です。
1868年が明治元年なので、
明治の世の中では生きられなかった人。

しかしながら彼の名前は
彼が実際に生きた江戸時代ではなく、
明治以後の日本、特に昭和以後において
おおいに轟いています。

超有名人ですよね!

今の日本で彼の名を不動にした作品は
何と言っても司馬遼太郎さんの
『竜馬がゆく』でしょう。
産経新聞の夕刊上で、
1962年から1966年に連載。

司馬さんがこの小説を書き始めたのは、
産経新聞時代の後輩にあたる
高知県出身の人が遊びに来た時に、

「自分の国の土佐には
坂本龍馬という男がいる。
ぜひ龍馬を書いてください!」

と依頼されたことがきっかけだそうです。
この小説がメガヒットした。

テレビドラマに何回もなっている。
1965年、1968年、1982年、
1997年、2004年と作られています。
漫画版も『コウノドリ』で有名な
鈴ノ木ユウさんが週刊文春で連載している。
もう少し前だと、小山ゆうさんが
少年ビッグコミックとヤングサンデーで
『お~い!竜馬』で描いていますね。
(他にも竜馬が出てくる物語は
それほど無数にある…)

この漫画『お~い!竜馬』の
原作を書いたのが、武田鉄矢さん。
高校時代に『竜馬がゆく』を読んで感動、
影響を受けて坂本龍馬の研究をするべく
高知大学文理学部を受験したほどでした。
1971年には「海援隊」も結成!

つまり、実物の坂本龍馬がいて、
司馬さんをはじめとした
たくさんの人が彼を物語って、
その彼のイメージがたくさんの人に
影響を与えている、ということになります。
小さい頃は鼻を垂らした小僧、豪快な姉、
剣術の達人、開明的な思想、師匠の勝海舟、
人たらし、土佐弁、ラブロマンス…。

実に様々なキャラ付けがされている。

「…あの、素朴な疑問なのですが、
龍馬と竜馬は、
どちらの表記が正しいんでしょう?」

これには諸説ありますが、
直筆では「龍馬」が正しいとのこと。
ただ、司馬さんは「あえて」
『竜馬』の字を当てたのではないか、
という解釈もあるそうです。
つまり、ここで描かれている竜馬は
あくまで自分が膨らませて書いている
「司馬カラーの竜馬」であり、
本当の龍馬ではないですよ…と。

「本物の坂本龍馬ではない、ということ?」

いや、実際に坂本龍馬は生きていて、
活動して、この世を去りました。
それは間違いない。
ただ、なにぶん明治時代になる前に
突然いなくなったために
しばらく無名の存在だったんです。

もちろん故郷の土佐、高知では
知られていた。しかし、
全国的には無名といってもいい。
あくまでローカルヒーローです。
司馬さんが『竜馬がゆく』を
書く前は、全国的には無名…。

だからこそ、産経新聞の後輩の方も
「高知のローカルヒーローである
龍馬(竜馬)を書いてください!」と
司馬さんに頼んだのでしょう。

…ただ、この時期の
司馬さんはかなりの売れっ子小説家で、
何本もの連載を抱えていました。
『竜馬がゆく』は1962年から1966年。
この間に『燃えよ剣』『功名が辻』
『国盗り物語』『関ヶ原』を
同時進行で書いている…
(すごい)。
司馬さんは頭の中で幕末と戦国時代を
行ったりきたりしていたと思われます。

そんな中で生まれた
司馬さんの「竜馬」ですから、
史実をベースにしたフィクション部分も
もちろん多いのではないか?

しかし、これも逆説的ですが、
その「フィクション部分」があるからこそ
人口に膾炙し、親しまれ、
有名になっていた
部分も多分にあるように
私には思われるのです。

いわば「魅力ある虚像」

司馬さんの素晴らしい筆力により
読者の頭の中に
快男児・坂本竜馬が出来上がっていく…。
その「虚像」に影響を受けた人たちが
さらに自分なりの「語り」を付け加えて
ドラマや映画、漫画で再生産していく…。

私は、それが悪い、というつもりは
全くありません。
むしろ「物語」の面白さだと思う。

物語とはトリミングと取捨選択であり、
何かに光を当て、闇に隠す行為ですから。


たぶん、坂本龍馬の人生から
例えば「竜馬」として書かれた
フィクション部分を削り取ったら、
世間のイメージとは違う龍馬像が
浮かび上がってくると思います。

2010年の大河ドラマ『龍馬伝』
坂本龍馬はこの「竜馬」に対する
アンチテーゼ、歴史の多彩な解釈を
示しているように思われるのです。
主演は福山雅治さんですが、
香川照之さん演じる岩崎弥太郎の
視点を通して物語られる「龍馬」を描く。

(ちなみに1968年には
大河ドラマ6作目として、
『竜馬がゆく』がつくられています。
主演は北大路欣也さん)

この『龍馬伝』の第1回目では、
岩崎弥太郎に取材する記者の姿が描かれる。
坂崎紫瀾という明治のジャーナリストで、
『汗血千里駒』という龍馬の伝記小説を
1883年に土佐の新聞に連載しています。

明治になる前にこの世を去り、
無名だった坂本龍馬ですが、

郷土の英雄として語り継がれていき、
司馬さんという稀代の
ストーリーテラーの手によって
全国的なヒーローとして物語られた…。
そう言えるのではないか?

やはり彼には、
他人が思わず「こんな人がいたよ!」と
物語りたくなる魅力が
豊富にあった
ようにも思えてくるのです。

最後にまとめます。

本記事では坂本龍馬を題材に
「物語」と「キャラ」などについて
書いてみました。

読者の皆様の「キャラ」は、
「パーソナルブランディング」は、
どんなものですか?

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