選択肢の連続 ~「イバーランドの県道」制作ノート4~
この記事では、「イバーランドの県道」を制作した過程を書いてみたいと思います。今回は4回目。前回の3回目の記事はこちらからです↓。
【前回(3回目)のあらすじ】
2人のイラストレーターさんに外注して、擬人化キャラを描いて頂いた。ゼミ生を2人並べてのインタビュー形式も決まった。しかしこれだけでは足りない。「ゲームブック」という手法で活路を見出すものの、さて実際に書くためには何が必要なのか? そもそもどうやって書くのか…!?
1、金字塔にヒントがある
ゲームブック。1980年代にものすごくブームになりました。特に有名なのが、「ソーサリー4部作」に代表される翻訳モノと、「ドルアーガの塔3部作」と呼ばれる国産ゲームブック↓。
どちらも復刊しています。ゲームブックを書くにあたって、やはりこれらの「金字塔」を参考にすべきだと考えました。
「ソーサリー」のほうは、いわゆる「一方通行」です。どんどん選択していって、ゴールを目指す。基本、スタートには戻れない。その旅の途中で敵と戦ったりアイテムを手に入れたり謎を解いたりする。
「ドルアーガ」のほうは、画期的な「双方向」システムが採用されています。一度通ったところにももう一度行ける。特に3巻などは、階を飛び越して上に行ったり下に行ったり、ぐるぐる回れる楽しさがありました。
「いろいろな場所に行けるようにする」という点では、後者の「双方向」のほうが良いでしょう。しかし、これは制作上の話ですが、作るのが難しいんですね。つまり、一度遭遇したイベントやキャラにまた会うようになるわけで、アイテムの無限増殖とか、話の進め方とか、うまく管理しないとごちゃごちゃなゲームブックになってします。その点、「一方通行」はスッキリしています。プレイヤーも制作側も。今回は最初なので、シンプルな「一方通行」でどんどん進めるようにしよう、と決めました(もし、続編を作ることができたら、今度は「双方向」制作にチャレンジしてみたいです)。
次は「世界観」の設定です。
「プロイバゼミ」「プロラキゼミ」という2つのゼミがある。教授とゼミ生たち、計90人を登場させる。これは必須です。となると、各市町村にゼミ生がいて、主人公を助ける形にする。ゼミ生は「出演者」で、いわゆる「劇中劇」、ゼミ(茨城県)のアピールのために、教授の指示のもと、アピールグッズを作るという設定にして、このゲームブックに登場するようにしよう。
一方通行で旅をするわけですから、北から南に行くか、南から北に行くか。南からスタートだと東西に広がりやすいので、最初は選択肢が限られている北からスタートのほうがいいだろう、となると「北茨城市(キタイバラキ)」から「取手市(トリデ)」まで行くようにするか…。ソーサリー4部作でも「マンパンの砦(トリデ)」を目指しているから、かぶっていいかも…。と考えてルートを作ります↓。
この地図上では3つしかルートがないように見えますが、あくまで標準ルートであって、実際には東から西に抜けていくこともできます。
さて、「なぜ主人公は旅をしているのか」を決めなければいけません。北から南に抜けていくわけですから、今度は「千葉県」に行くのだろう。その前は「福島県」から来たのかな。よし、「諸国漫遊」している設定にしよう。水戸黄門ともかぶるし。となると誰に言われてそんな旅をしているのか? せっかく教授がいるわけだから、学長もいるはず。「ジャパン学長」とでもしておくか。「町学校」では、このジャパン学長の下で、それぞれの都道府県がゼミを主宰しており、そのうちの2つが「プロイバゼミ」「プロラキゼミ」にしよう…。と、後付感満載ですが、設定を決めていくわけです。
このように形にしていく中で詳細な設定を決めるやり方を、私は「まずはやってみなはれスタイル」と呼んでいます。もちろんゼロからではなく、漠然と設定は頭の中に浮かんでいるのですが、実際の制作物を作っていく中で詳細な設定に調整していくのです。目に見える形にならないと、発想も生まれにくいですしね。南極探検の西堀榮三郎さんの言葉から名付けました↓。
旅の舞台は茨城県。しかし、あくまでフィクションとしなければいけませんから、架空の場所の名前を決めなければいけません。茨城、イバラキ、イバラキランド? それじゃ何のひねりもない。そこでひらめきました。この名作ゲームブック「ネバーランドのリンゴ」のタイトルをもじってはどうか↓。
ということで、「イバーランド」が誕生しました。あとは「リンゴ」をもじってタイトルを決めます。イバーランドの…タンゴ? ダンゴ? ちょっといまいちか。イバーランドがカタカナだから、漢字がいいかな? となると林道? 参道? 剣道? …茨城「県」だから、「県道」にしよう!
このようにして決まったのが「イバーランドの県道」というタイトルです。
ちなみに、次の目的地である千葉県は、「チバルハイム」という名前にしました。これは「ネバーランドのリンゴ」の続編である「ニフルハイムのユリ」というゲームブックから発想しています↓。
2、パラグラフラビリンス
次は具体的にどれくらいの量で、どう書いていくかです。
ネバーランドのリンゴのように、1000パラグラフ(番号)も書いていては、いつ終わるかわかりません。キャラ数から逆算します。
90キャラ出しますから、90は最低必要です。しかし、ただ北から南に抜けて終わりではあっさり過ぎるので、少し選択肢を増やす。つまり、最後に「ラスボス」を登場させて、戦わせる。勝つためにはアイテムや経験を手に入れさせる。よし、各ゼミ生が市町村ゆかりのものを渡すようにしよう。また、シンプルにどんどん一方通行で進ませる代わりに、「隠し番号」(選択肢にない番号)にも行けるようにしよう。となると90では足りないので、その倍、180は必要か…? 「イバーランド」だから、ゴロ合わせで180か…。
ラスボスも考えます。夏目漱石の小説「坊ちゃん」に赤シャツが出てくるように、ラスボスは必須です。あの夏目漱石も、東大の三四郎池を見ながら構想を練ったと言われています。関川夏央さんと谷口ジローさんの「『坊っちゃん』の時代」でも描かれていますね↓。
茨城県に敵対するラスボス…。となると「あれ」しかないよな。ではそれをもじってラスボスの名前にして…。1人だとつまらないから、執事っぽいキャラをつけて(ゲームブック「ドルアーガの塔」を参考にしました)、あとその前座として、茨城県っぽい敵キャラも出して…と発想(妄想?)は広がります。このあたりはネタバレになりますので、ぜひ実際にプレイしてみてください。有料公開のnote版はこちらから↓。
ということで、各市町村で手に入るアイテムや経験を考えます。これは、クリアに必要なキーとなるアイテムや経験を決めて、それ以外は特産品や名物料理にすることにしました↓。
この基本となるデータをもとに、それぞれのゼミ生のシーンを文章にしていきます。最初からパラグラフを組む(番号を決める)と収拾がつかなくなるので、文章を全部書いてから、番号をふりわけるようにしました↓。
このあたりの作業、かなり時間がかかります(泣)。今はExcelなどで並び替えなどができるからいいですが、昔は手書きでどうやって書いてたんだろうか?とゲームブック作家さんたちの苦労がしのばれました。カード状にして組み合わせたりしてたんでしょうか…。
このようにして何とかゲームブックは書き終えましたが、またまた問題が出てきました。
この「イバーランドの県道」というコンテンツを、どのように世の中に出していくべきか? 紙に印刷して売る? ネット上で公開? コミケ的なものに参加する?
さあ、どうしよう?
(次回につづく…)
3、選択肢の連続
いかがでしたでしょうか?
この記事では「イバーランドの県道」の制作過程について、どのようにゲームブックの設定を考えたか、実際にどのように書いていくかについて書いてみました。
もちろん、見よう見まねでの書き方ですので、最初にびっちり設定を決めてから書き始めるやり方、パラグラフをしっかり組んでから書き始めるやり方などもあると思います。
途中で心が折れそうにもなりましたが、波刀風賢治さんもツイートされています。「最初は駄作でいいんです。みんなで粗製乱造しよう!」と↓。
それに応えてこんな引用リツイートをしたりしました↓。
本当にいい時代となったと思います。こうやってSNSやnote記事などで自分の作品をアップできるのですから。
この記事にあるような「リセット願望」があるわけではないのですが…(汗)↓。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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