『どうみても、チョコじゃねえだろ』あこはる様企画「ちょこの一枚」+ひっそり100本ノック㉖
「撮った! 撮ったよ、ヒスイおばちゃん!」
小学生のきみはスマホを振りかざして叫んだ。足元には、仔猫のバスケット。
おととい、きみが路上で拾ってきた猫だ。
自宅では飼えず、近所に住む便利な叔母=あたしのところへ持ってきた。
「ごはんのお金とか、あたしが出すから!」
あんたのおこづかい、月に500円じゃん、とは言えず(笑)。
「病院にも連れていくから!」
一人じゃ、このバスケットさえ持てないくせに。
なにをぬかしおる。
そう思ったけど。
きみはもう、興奮していて。
ほっぺたを真赤にして、初夏の風と踊るように走ってきたから。
あたしはもう、何も言えない。
「名前ね、決めてあるの。ちょこちゃん!」
「……は?」
「ほら、チョコレート色みたいじゃん! だから、ちょこちゃん」
あたしは
ほわふわの毛玉をじっくり眺める。
上から見て、下から見て。横から見て、斜めから見た。
チョコレート色じゃねえだろ。
どうみても、キャラメル色だろ。
そう思ったが、かしこい叔母はだまって仔猫を病院へ連れて行った。
きみはコロコロと笑いながらついてくる。
「ちょこちゃん、ちょこちゃん」
何度もそう呼ぶ。
前に走り、後ろに戻り、バスケットの伴走をして、動物病院まで着く。
受付で聞かれた。
「かわいい仔猫ちゃん! お名前は?」
「ちょこです!」
「コハクです」
あたしときみの声が、重なった。
きみはじっと、あたしを見上げる。
「ちょこだよね」
「コハクです」
きみは一瞬だけ、だまった。
白目が、静かに青っぽくなっていく。きつくきつく、心を決めた時の顔だ。
きみは、昔から科学的根拠にキックをぶちかまし、理論を鼻であざ笑い、力づく・ゴリ押しで意志を貫く子供だった。
あたしから目をはずし、まっすぐに受付の人に言った。
「ちょこです。高野ちょこです」
「……ちょこちゃん、でいいですか?」
受付の人は、あきらかにあたしに確認してきた。そりゃそうだ、どうみたってスポンサーはあたしだ。
だが。
もう一度言う。
あたしの姪、高野澄(たかのすみ)はあらゆる科学的根拠を凌駕する子供だ。
母親の妊娠が分かった瞬間、胞状奇胎、いわゆる「ぶどう子」を疑われる子供で、本来なら流産するはずだった。
それが「胎児共存奇胎」というリスクの高い妊娠期間を経て、無事に生まれた。無事に育った。一族は驚嘆した。
ありえないほどの強運で、あらゆる危険性をはねのけて生まれてきた子供なのだ。
だからあたしは。この姪に逆らわない。
強運を肩に乗せて生まれてきた子供は、自分が決めた道を突き進んでゆく。理屈も科学も不要。
ただすさまじいまでの、意志の力がある。
あたしは受付の人に、静かに言った。
「コハクです。高野ちょこ・コハクです」
いま。我が家には、どうみてもキャラメル色の茶トラ猫がいる。
名前は
高野ちょこ・コハク。
姪の澄は、今も「ちょこ」と呼ぶ。
5歳になった猫は「ちょこ」という呼び名にしか、反応しない。
そこに科学的根拠はなく
ただ、命を拾ったものと、救われたものの強固な愛情が存在している。
……食わせて、世話してるのは、あたしなんですけど。
【了】
このお話は、あこはるかさんの企画に参加しています。
#ちょこの一枚 #あこはる企画
さらにひっそりと。
#NN師匠の企画
#ヒスイの鍛錬100本ノック
#お題は科学
100本ノック 今後のお題:
三階建て←俳句←舌先三寸←真昼の決闘→夕日←春告げ鳥←ポーカー←課題←タイムスリップ←蜘蛛←中立←バッハ←お風呂←メタバース←アニメ←鳥獣戯画←枯れ木←鬼←ゴーヤ
あこはる様の企画の〆切があるので
今日はやめにヒスイ日記更新です!
また明日の夜、お会いしましょう💛
#うちの保護いぬ保護ねこ