「高度2200メートルの歌声」かっちーさん、お誕生日おめでとうショートショート⑪
やあ、どうも。いい店ですな、私は初めてなんです。
よろしければ、お近づきのしるしに一杯どうです?
ええ。ここには仕事で来ました。なに、ありきたりなルーチンワークですよ。年間スケジュールで決まっている場所へ行く、仕事をする、仕上げる、次の場所へ行く。その繰り返しです。
飽きますよ、そりゃ。おなじ仕事をずっと続けているんですから。華やかさはありません、むしろ暗い仕事でして。
しかしですな、仕事ですから。文句は言えんでしょうが?
そりゃ私だって、もうひとつ上に行きたいと思うこともあるんです。
最上層に登りたくないって言ったら、そりゃ嘘でしょうよ、あなた。
うちでいえば、最上層にいるのは、筋の通ったやつでしてね。
その次に、群れを作って整然と浮かぶ奴らがいます。
私のいる中層にはね、ひつじみたいにおとなしい連中が多いですよ。
誰だって、自分以外の何かになりたいときがある。
私だってそうでした。
他のやつらが楽々と登っていくのを臍をかんでみている。それが正直な話ですよ。
しかしですね。
私は私でしか、ないんです。
私は生まれた時から、この不穏な姿です。
どれだけ遠くにいても、人は私の気配を感じて、逃げていきます。
仕方がないんです。私はそういうものなんですから。
私は私でしか、ない。
そう思ったらね、目の前が急に明るくなりました。
自分は自分のままでいい。
最上層の薄い筋にも、群れの一部でなくていいって、ふい思えたんですよ。
そうなると、見える景色も変わります。
私みたいなものを、わざわざ呼んでくれるひともいるんです。
仕事をすれば、喜ばれることもあります。
そんなときは、『ああ、自分のままでよかったなあ』って、思うんです。
この世に在るって、つまりそういう事なんですね。
目の前のものを、一つずつ、こなしていく。
これから先のことも終わってしまったことも考えずに、
ただ無心に、目の前の仕事をこなしていく。その瞬間をつないでいけば、一人にしか見えない星座が、いつか夜空に浮かぶんです。
はは、ロマンチックすぎましたかね。
ああ、お帰りになる時間ですか。すっかり引き留めてしまいましたな。
せっかくですから、名刺でも――。
私、『らん・そううん』と申します。会社では『雨雲』なんて呼ばれています。
明日の夜まで、この町にいる予定です。
だから、あなた
明日は一日、傘をお持ちくださいよ――。
【了】
今日のショートショートは、ヒスイの尊敬する
「かっちー 雪ん子」さんのお誕生日祝い短編です。
ほんとうは毎週ショートショートに出すお題「告白雨雲」なのですが、
どうも字数を削ると意味が伝わりにくい気がしたので
毎週ショートには、短縮版を、夜中に出します(笑)。
だからこれは、そっくりお祝いに。
ヒスイにとってのかっちーさんは
『いつも空のどこかを覆ってくれている雲』のような存在です。
気が付かなくても
見えなくても
空のどこかに、かっちーさんがいる。
雲だから、最上層のすじ雲(巻雲・けんうん)の日もあるし
一群れのうろこ雲・いわし雲(巻積雲・けんせきうん)の日もある。
ニコニコひつじ雲(高積雲・こうせきうん)かと思えば、
怒りの雨雲(乱層雲・らんそううん)の時もある。
どのかっちーさんも、ヒスイにとっては
『明日もまた、俺はいる。ちゃんと書けよ、ヒスイ』って
言ってる気がする。
あ。イメージですけどね(笑)
ヒスイもときどき思い切って、かっちー雲の高さまでのぼり、
自分の書いたものを確かめます。
『まあまあだな』『悪くない』『明日に期待しよう』『アカンな、コレ』
だいたい、こんな声が聞こえます(笑)。
自分の中に、自分以外の視点を持てたことが
かっちーさんが、ヒスイにくれた最大のギフトでしょう。
別にヒスイからは何も返せませんけど(笑)
お誕生日おめでとうございます、かっちーさん。
みんなの俳句、弥栄の盛り上がりも、おめでとうございます。
また来年も。お祝いしましょう。
noteにいてくれて、ありがとう。
今日はriraさんの、かっちーさんバースディ企画に参加しています。
みなさん、いろんな記事を上げていらして
読むのが楽しい!
ぜひ「#かっちー2022」のタグで探してみてくださーい!
ヒスイが、かっちーさん記事の中で一番好きなやつ。
『自分の特性とnoteへの期待(に限らず、客、友人、公募など)との間のギャップを分析すること』。
自分と、自分が持っている外への期待を分けて考えて、分析することって
すごい大事だと思います!
ヘッダーはmanusamaによるPixabayからの画像
#かっちー2022