『デザートは、季節はずれのミカンなり』ヒスイの恋愛短編(750字)
今日は仕事でミスをした。こんな日はヒールのある靴がきしむみたい。
残業して帰宅すると明かりがついている。同棲中の彼が先に帰っているらしい。ちょっとだけ、ほっとする。
部屋に入ると、テーブルにはみかんが一つ置いてあった。
「五月なのに、みかん?」
「客先でもらった」
彼は大きな手でキャベツを切り、玉ねぎを切り、人参を切っている。
「今夜は野菜いため?」
「ん」
彼は口べただ。一緒に暮らしていても会話はあまり、ない。
ぼんやりしていて、季節はずれのミカンみたいな人だ。なんで、こんな人が良かったんだろう……。
ふたりでテーブルにつく。野菜いため、みそ汁、ご飯を並べる。食べる。
彼が言う。
「今日、総務に異動した」
「え、そうなの? よかったね、ずっと異動願を出していたものね」
彼は
「おれさ、人見知りするし、頭の回転も速くないけど、根気があるから営業よりも総務が向いていると思うんだ。
それに、仕事でもプライベートでも自分に必要なものはわかるんだ。
だから総務に異動できて、ほっとしている。
それに。きみも、俺に必要な人だ。
――結婚しよう」
とん、と彼はみかんをあたしの前に置いた。
「これ、結納とか指輪の代わり」
「……みかんだけど?」
「まず、みかん。次に指輪、結納。順番にやるから」
ふふっ、と笑って、あたしはみかんを手に取った。
「たべる?」
「ああ」
皮をむいて半分にわけて、彼に渡した。二人でゆっくりと味わう。
「うまいな」
「そだね」
「――返事は?」
「なんの?」
「だから、さっきの――」
「あ、忘れてた」
あたしはなんだか、おかしくなってきた。
ふたりとも、気が利くほうじゃないけど。
だからきっと、ちょうどいい。
季節はずれのみかんみたいな、ちょっとぼんやりした幸せを、これから一緒に味わっていこう。
ずっと。ふたりで。
【了】
『デザートは、季節はずれのミカンなり』
すいません! 20時に、出し忘れていました!!
ヒスイもかなり、季節はずれのぼんやりものです(笑)
最後まで、ありがとうございまーす!!
ちなみに、トップ画像はおなじみ、川中紀行さま。
写真もカッコイイ。
#NNさまの企画55
#ヒスイの鍛錬100本ノック
#お題・みかん
今後のお題
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【10】マトリョーシカ 【12】落書き
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