災害時も普段も役立つポリ袋調理 昭和女子大の学生が挑戦「おいしい」がローリングストック促進
梅雨晴れで夏本番を思わせる暑さとなった6月末の夕方、昭和女子大の学生が目黒区のコミュニティーセンターの調理実習室に参集し、災害時に役立つポリ袋料理に挑戦しました。
「案外、おいしい!」。最後に試食した学生たちの声を聞いて、つくづく思いました。災害食のローリングストックを習慣づけるには、口に入れたとき、おいしいと感じることが一番だ、と。
おいしさの秘訣はレシピ
この日の実習は、ローリングストックの活用術を探求している「昭和女子大食プロジェクト」(通称、食プロ)の今年度初のワークショップ。11人の新メンバーにポリ袋調理を実際に体験し、災害食について考えてもらうことが目的でした。
献立は、①ヤキトリ缶を使う白菜の卵とじ、②ご飯、③パイン缶の簡単蒸しケーキ。どれも食プロの定番で、クックパッドのレシピサイトや主要メディアで好評を得たものばかり。
講師役を務めたのは、食プロの社会人研究員で関東学院大や立命館大などで「食とメディア」について教えている小野田美都江さん。まず、彼女がレシピをホワイトボードに書いて説明し、厚め(0.01㎜以上)のポリ袋を使う、大きめの鍋が理想などと、ちょっとしたコツを「伝授」。その後、学生たちは三班に分かれ、材料と調味料をポリ袋に詰めて揉んだり振ったりして鍋で30~40分湯煎しました。
神妙な面持ちで料理を口に入れた学生たちの感想は、「普通においしい」、「かなりうまい」、「ご飯もふっくらしている。芯が残っていない」、「思ったより簡単」……。災害食と言えば、おにぎりやカンパンを思い浮かべるが、いつも家で食べる料理の味とそう変わらない、いや、それ以上かも、といった意外感にあふれていました。
おいしさの秘訣はレシピにあります。小野田研究員の説明は5分足らずでしたが、実は、ホワイトボードに書き出された材料や水の分量、湯せんの時間などは、彼女ともう一人の料理研究家が六〇回以上の実験を繰り返し、試行錯誤の末にたどり着いた数字なのです。加えて、卵やバターも味を引き立てています。
おいしさは力なり
災害はいつくるか分からない、普段から少し多めに備蓄して食べては買い足し、いざというときに備えよう、というのがローリングストック(日常備蓄)の決まり文句です。政府も自治体も防災NGOも似たようなスローガンを掲げています。
少しお堅い場では、非常時の需要を日常時の需給に組み込もうとか、非常時と日常時の境界をなくすフェーズフリーの発想に転換し、普段食べているものを災害時に役立てよう、といった「講釈」を垂れる専門家もいます。
しかし、いずれも「言うは易し行うは難し」です。ついうっかりして買い足すのを忘れたり、面倒になって補充を怠ったりしがちです。食べては買い足すという一連の行動を定期的に繰り返すには、どんなに「継続は力なり」と精神論を唱えてもダメです。首都直下型地震などの想定被害を声高に叫ぶだけでも解決しないでしょう。
食べて、おいしいと感じれば、食べ続けたいという欲求が生まれ、次のために買い足そうとなります。一連の行動を促し、楽に循環させることができます。おいしいという感覚こそ力なりです。
とはいえ、高級レストランの絶品を求めているわけではありません。頬が落ちそうなほど美味でなくても大丈夫です。学生の感想「普通においしい」とはよく言ったもので、違和感なく食べられ、いつも通りほんわかするぐらいのおいしさであれば十分です。
時短にもつながるポリ袋調理
小野田研究員によれば、ポリ袋調理のメリットは三つあります。まず、清潔なこと。一人分ずつ作れる(そのまま食べられる)し、手で触る工程が少なく、高温殺菌される。二つ目は、栄養分が逃げないこと。もう一つは、省エネ。洗い物が少なく(水の節約)、ご飯とおかずを同時につくれる(火力の節約)。大きい鍋を使えば、数人分つくれる。
30~45分の湯煎は必要だが、普段の調理で必要な皿や鍋を洗う手間を勘案すれば、最終的には、かなりの時短にも貢献します。学生の一人は、「時短で簡単、しかも、おいしい。ポリ袋調理は、働く女性や一人暮らしの食生活にぴったり」と話していました。
今年度は、食プロとして、①エシカル(倫理的)レシピについて考える哲学カフェや②赤ちゃんのいる家庭用のローリングストック、③WEBプロジェクトの三つの分科会を設けます。公開講座も予定しています。こうした試みを踏まえ、学年末に学生が考案してくれるレシピが楽しみです。独創的な発想を期待しています。