「法的三段論法」指南
R6.12.17更新
本記事は、筆者が、学部生向けの合格者座談会で配布したレジュメを、一部改変したものです。主な読者は、これから司法試験に向けて法学を学習する、学部1・2年生や、法科大学院の未修者を想定しています。
第1 はじめに
「法的三段論法」や、「趣旨」「規範」「あてはめ」という言葉はよく聞くし、予備校もよく「趣旨規範」「論証」などとは言うが、どのようなものなのだろうか。後述するが、これらは論理的な法律答案の「骨組み」に関わるものであり、判例や学説の学習のために、教科書や判例を読む段階から意識しておくと、学習効率が飛躍的に向上する。
学習が進んでいる方には今更かもしれないが、もし知らなかった方がいれば、私なりの理解を示すので、参考にして欲しい(ただし、一つの見解であり、正確性は保証しかねる)。
第2 「三段論法」と「法的三段論法」
1 「三段論法」を簡単に
一般に「三段論法」とは、「大前提」と「小前提」という2つの命題の組み合わせから、「結論」となる1つの命題を導く推論(論理の論じ方)のことである。「大前提」は一般的抽象的な命題であり、また「小前提」は個別的具体的な事象に関する命題である。
これは〈b=a(大前提),c=b(小前提)⇒c=a(結論)〉と表され、よくある例えでは、「人間(b)は(=)死ぬ(a)」「ソクラテス(c)は(=)人間(b)である」、よって「ソクラテス(c)は(=)死ぬ(a)」というものがある。
ここでは、「人間」とは抽象的概念であり、それを用いた命題が大前提、「ソクラテス」とは具体的事象であり、それを用いた命題が小前提となっている。
2 「法的三段論法」とは
(1)概説
そして、この「三段論法」を法律に応用したものが、「法的三段論法」である。
法律は、「法律要件・判断基準(b)に該当すれば法的効果が発生する(=a)」と規定され(大前提)、「具体的事実(c)が法律要件・判断基準に該当する(=b)」(小前提)ことで、「具体的事実(c)において法的効果が発生する(=a)」(結論)、という構造である。大前提(特に法律要件・判断基準)を「規範」、小前提を「あてはめ」という。
なお、「法律要件・判断基準(b)に該当すること」の帰結(a)は、厳密な意味での「法的効果の発生」だけではなく、「別の規定の法律要件などに該当すること」や「複数の検討事項がある場合における、次の検討の前提を満たすこと」などであることもある。
少し変則的ではあるが、その例として、正当防衛(刑法36条1項)における、自招侵害の要件に「あたらない」場合があると考えている。
自招侵害の要件は、①(「侵害と時間的場所的に密着した」「防衛行為者の不正な行為によって」)「侵害を自ら招いた」といえ、かつ、②「侵害が通常想定される程度を大きく超えないこと」である(∵ 侵害は当然の反動であり、36条1項の根拠たる緊急状況性なし)。また、その帰結は、正当防衛の各要件を検討するまでもなく、正当防衛が成立しないことである。
例えば、防衛行為者となるべき甲が、侵害者となるべきVを手拳で殴打(刑法208条)したのに対して、Vが甲に対してナイフで攻撃(侵害)をした場合、侵害を招致した甲の「不正な行為」(①充足)よりも、Vの侵害行為の方が、凶器の使用の点で著しく致死性が高く、かつ、通常徒手での攻撃に対して凶器を持ち出すことはないので、想定される侵害の程度を大きく超えるといえる。そこで、②を満たさず、自招侵害による、正当防衛不成立とはならない。この場合の帰結としては、正当防衛の各要件を検討することになる。
そこで、自招侵害が問題となる事例では、①②の要件いずれか(b)の非該当の帰結として、正当防衛の各要件の検討の前提が満たされる(a)ことになるのではないか。これは、権利発生や犯罪成立という、厳密な意味での法的効果とは異なるものと考える。
法律の規定は誰に対しても同じように適用され(これを指して「法的安定性」という。)、それゆえ一般的抽象的かつ一義的でなければならないので、「法的三段論法」では、一般的抽象的な「規範」(大前提)を明示することが、まず重要となる。
また、具体的事実を「規範」に「あてはめ」る(規範への該当性を示す)ことも重要だが、その際は、事実の摘示に加え、事実と「規範」の「つなぎ」(「規範」該当性の理由)となる、「法的評価」を示すことが望ましい(小前提において、事実が「c」、「規範(のうち要件部分)」が「b」であり、「c=b」の「=」が法的評価のイメージ)。
(2)「論点」について
制度や規定の適用要件(特に明文規定のない制度)、法律要件(文言)の意味・内容、判断基準など、あるいは法的効果の内容が、条文から一義的に判明せず、解釈で定めなければならない場合がある。その解釈が必要な点を「論点」といい、判例や学説の多くは「論点」に対する解釈である。ここでは、「規範」部分が論点になっている場合について、以下記述する。
ア 「理由付け」と「規範」について
そして、解釈で定められた、規定や制度の適用要件、法律要件の意味・内容、判断基準なども、一般的抽象的な「規範」にあたる。また、解釈で「規範」を示すには、その解釈に理論的な根拠のあることが大切であり、それを答案に示すことも重要である。これこそが「理由付け」である。
「理由付け」は、主に、まず規定の文理解釈(文言の辞書的意味)から行い、次に制度や規定の趣旨及び適用関係などの理論面から行い(「許容性」はこれにあたることが多い)、さらに規定の適用の有無による不都合など「必要性」から行う。
予備校の「論証」「趣旨規範」は、主にこの2つをまとめてパターン化したものである。
イ 「あてはめ」について
「論点」の「あてはめ」においては、具体的事実が、まずは、解釈で示した規定や制度の適用要件、法律要件の意味や内容、判断基準などに該当するか示す。その上で、具体的事実が、「論点」となった、制度や規定の適用場面、法律要件に該当するか否かを示して、最終的に、その具体的事実の下における、当該規定や制度の適用、法的効果(他の規定の法律要件への該当性を含む。)の有無という結論を示す、「入れ子」的な構造になる。
第3 具体例
文字の説明だけでは難解なので、簡単な【設問】で具体例を示すこととしたい。
民法94条1項・同2項に関する典型事例だが、答案にすると、以下のようになる。(noteでは文字に着色できないので、画像添付をした)
「理由付け」は赤、「規範」はオレンジ、「あてはめ」は緑(「法的評価」は網掛けをした)で色分けをしてみた。青字の部分は「問題提起」といい、何が「論点」かを示すものである。あるとより良いが、必須ではないと考えている。
下線部は、94条2項の規定(「規範」)と、その「あてはめ」の対応関係を示している。その内部で、いわゆる「94条2項の『善意の第三者』」の論点についての「規範」と「あてはめ」が展開されるという、「入れ子」構造になっていることが、お分かり頂けると思う(特に1(2)イの部分)。ナンバリングでこの構造を示すことも有用である。
この答案例は、法的三段論法を意識して、「規範」と「あてはめ」の対応関係を、かなりわざとらしく書いている。実際の答案では、条文は番号を書くだけで足りる(書き写す必要はない)し、反対に、もっと難しい問題では、「理由付け」で異なる見解に言及しなければならない、といったこともある。
第4 まとめ
この記事では、「法的三段論法」の「基本形」を示した。実際の答案(特に司法試験)では「法的三段論法」を、論点の重要度に応じて、多少崩して書くことも多い。解答時間の制約もあり、そこまで意識する余裕がないという方が正確かもしれない。
しかし、学習時、例えば基本書や判例を読む際に、読んでいる内容が、一般的抽象的「規範」と個別的具体的事実の「あてはめ」、抽象論の中では「理由付け」と「規範」、具体論(「あてはめ」)の中では「事実」と「法的評価」の、それぞれどれにあたるか、という点を区別し、答案作成時にはどの要素として書くか、という点を意識しておくと良いのではないかと思う。
そのようにすることで、特に「理由付け」部分は論理的に理解できるよう、学習の過程において、記述を精読したり別の文献を調べたりといった意識が働きやすくなるし、答案作成時にも、学習内容を、正しい位置付けで、記憶からそのまま答案に落とし込むことができ、限られた時間でも、正確かつ論理的な答案を作成できるのではないか、と思う。
第5 本記事のPDF版
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以上