トラベルボイスで学ぶ観光経営学Vol.5「愛知県の休み方改革「県民の日学校ホリデ-」、名鉄が子どもの旅行割引、地域の魅力や歴史を学ぶ契機に」その2
観光業はなぜ土日が繁忙期なのか
今回は前回からの続きとなります。
前回の記事については下記をご覧ください。
前回の記事では観光の分散化ということで、平日にも観光客に来てもらうことが大事ということでした。ですが、これはそんなに簡単ではありません。あまりにも当たり前のことですが、大事なので記載します。それは、日本は土日が休みという休暇構造になっているからです。
何を当たり前なことを言っているんだと思う方もいるかもしれません。ですが、これは社会的構造として重要な視点です。日本は土日以外に祝日や有休という休みがありますが、有給休暇を連続で取得できるような働き方はまだまだ少ないのが実体でしょう。また、仮に平日に有給で休めたとしても子どもがいる家庭であれば子供は学校があります。子どもが学校に行くのに家族旅行をしようというのは、日本人の感覚からすればハードルが高いと思います。この側面から観光地経営が導く理論が一つ見えます。
今回の事例で学ぶ観光経営概念「集団的意思決定」
旅行という商品は他の商品と異なり、多くの場合1人旅を除いて集団的意思決定によって決定する仕組みを持っています。このことは古典的なアメリカの研究でも明らかにされています。(Gartrell,1988)
つまり家族旅行する場合には子供と親の休みが一緒になる必要があるということです。今回のラーケーションという試みは働き方改革の中で発生したわけですが、観光経営の視点からするとこの集団的意思決定を促す役割を果たしているわけです。
旅の経験が旅のスタイルを決めてしまう
長きにわたって日本の国内旅行は土日による1泊2日の旅行スタイルが定着してきました。その背景には幼少期の家族旅行において土日しか一緒に行動できないという側面も大きな影響を与えたものと思います。
先日フランス出身の友人と話したのですが、フランスではバカンス制度があって長期休暇を取得することが多いそうで、子どもとあわせて長期滞在旅行に行くこともあるそうです。そこで得た長期滞在旅行の経験は将来の旅のスタイルにも影響を与えます。長期滞在旅行をしたことがない人は、将来の旅行スタイルとして長期滞在の選択肢を選ばないからです。
実際に、多くの日本人は1週間休みがあったとしても、1週間旅行するという人は稀でしょう。1泊2日、長くても2泊3日の旅行をして他は別のことをするのではないでしょうか?これは長期滞在旅行の経験不足からくるものが多いと思います。
ラーケーションはバカンスとは違いますが、例えば親御さんの有給とセットにすれば最大で1週間くらい休めるタイミングもつくれます。そうなれば、長期滞在旅行も可能になるでしょう。ラーケーションはこうした日本人の旅のスタイルを変える一歩として非常に面白い試みだと思います。
ライフスタイルが地域ブランドに
さらに面白いのはこれが愛知県発ということです。愛知県はTOYOTAを中心にした製造業のまちですから、多くの従業員がいるエリアです。起業のしやすさで誘致する地域もありますが、愛知県は「働きやすさ」という従業員視点での働き方改革を志向しています。
ある意味で働きやすい愛知県ライフスタイルを新たに作り出しているといえるでしょう。この新しいライフスタイルはそのまま地域ブランドになる可能性があります。他の地域よりも働きやすい地域という形で他と差別化されるからです。
このように、ラーケーションは様々な可能性を持った大変面白い制度だと考えられます。ただ、ここで述べたことはあくまで理論的な可能性だけであり、実際にどうなるのかはまだまだ分かりません。日本人のライフスタイルを変えるかもしれない制度として、今後もウォッチしていきたい制度ですね。
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