CD:ピスカ・ピスカ パーカッション&マリンバ・デュオ作品集
知らない作曲家の作品を、知らない奏者が演奏しているアルバム。
最近は、すっかり根気がなくなってしまったので、きちんと先入観を持つ前に、開封して聴き始めてしまった。
端的に言えば、二人の打楽器奏者による演奏で、メイン楽器はマリンバ。
様々な作曲家の作品の混載だ。
混載と言うのは、失礼な言い方だけど、コンピレーションとかクロスオーバーとか、あんまり好きな言葉じゃないので、様々な作家の作品を集めたレコードは、敬意を込めて混載物と呼ぶ事に決めている。
混載は、一見雑多にも見えるけど、空間を生かし、積荷を守るには、精緻な読みと鋭敏な感覚が必要で、正解はないのに悪手は無限にある世界。
それは、音楽にも当てはまるものだと思う。
空間を殺すも、時間を生かすも、全体像の把握力に掛かっている。
引越便であろうが、コンセプト・アルバムであろうが、優れた混載ほど無作為で、その実、全く隙がない。
ピスカ・ピスカは、正攻法の混載物。
アクロバティックな組み合わせの妙こそないけれども衒いもない安心感がある。
それは、個々の作品の持つ多幸感にもよく馴染む。
パーカッションの為の音楽というと、私が知っているのは、僅かに、クセナキスのプレイヤードくらいだから、専門家の耳や好事家の心に、このアルバムがどんな風に肉薄するのかは、想像もつかないのだけれども、能天気に聴く限りでは、リゾートのメロンソーダの味、という感じがした。
際限のない青空、夜半に打つ波、夏の音だ。
一つ一つの作品の個性は、余り意味を為していなくて、それは作家を傷つける言い分だとは解るのだけれども、漠然と景色を眺める心地がある。
だけれども、そこはリゾート、電線も広告塔もありはしない、周到に切り抜かれた構図の調和だ。
だから、これは聞き流したいアルバムだなと思った。
夏期休暇を音にした感じ。
休暇は、何もしない、という事にこそ値打ちがある。
だから、音楽を聴きたくない時に掛けたい音楽。
当り障りのない音楽なんて鬱陶しいし、煩い音はいよいよ御免だから、何も流さないのがいいのだけど、何も聞かないという状況を聴きたく思うのまた人情というものだ。
ここまで書いて気になったので、ライナーを読んでみたのだけど、やっぱり、全然、違うことが書いてある。
聴かれる事を求めている。
読む前に聴いて良かった。
実際、読んでから、も一度、始めから聴いてみたのだけれども、もう休日モードはすっかり消え失せてしまっていた。
あるのは、まるで音楽だった。
それは、敢えて悪く言えば、分不相応なホテルに泊まって、高級なサービスに逐一感嘆しなくちゃいけないモード。
ニーノ・ニーナは、何となく現実味の曖昧なアルバムだなと思ったのは、きっとこちらが夢を見ていたからなのだろう。
夢から醒めてしまえば、あとは、剥き出しの才能が迫って来る。
用意周到に練られた無作為ほど、究極の人造物もないからだ。
無邪気に飲み干すメロンソーダ。
それを供する者の心意気を味わうメロンソーダ。
同じ味がするかは、まぁ、こちら次第だ。
荷は解かれて初めて用を果たす。
ピスカ・ピスカも解かれる事を欲するものか。
このアルバムを購入したのは、マダガシカーラという作品をニーノ・ニーナの為に作曲した、風間真さんのnoteに触れて、実際に薦められたから。
勿論、収められてもいる。
だから、本当は、もっとフォーカスして、誉めなきゃいけないのだろうけれども、そういう風に聴きたいアルバムではなかったから、全景を引きで撮った。
カメラの事はよく知らないし、写真も実際には撮った事がない。
ただ、音楽のスナップショットを切るのは嫌いじゃない。
そして、撮りたいと思ったものしか、書き留めない。
そもそも、留め置きたいのは、音楽の正体ではなくて、出会した自分の心の動きの方だから、クリエイターの面々に優しい文章は、いよいよ書ける訳もない。
結局、好い混載でしたよ、と言うくらいしか出来ないのだけど、そんな賛辞は、誰も欲しくはないだろう。
プレイヤードに疲れた時は、きっとまた、ピスカ・ピスカを聴くだろう、と思う。
私にとっては、多分、クセナキスの方が普段着の音楽で、風間真の音楽は余所行きだ。
リゾートの貸し寝間着、そんな特別感と寛ぎが、このアルバムには漂っている。
安易に聞き流すのは、ちょっと滑稽で、そんなことをしたら、贅沢ではなく単なる浪費になってしまう気がした。
そういう役割の音楽を、これまで真剣に選んで来なかったから、まだ少し寝間着としては着心地が悪いのだけど、夏期休暇のワクワク感を呼び覚ますのもまた、そんな着心地の悪さあってこそのものだから、この特別感は、失いたくないなと思う。
このアルバムを手に取る人は、一体、どんな想いで聴くのだろうか。
メロンソーダの味わいが、いつの間にか、寝間着の着心地に変容しちゃったけど、私にとってはリゾートな音楽、という事には変わりはなさそうだ。