エリアF -ハレーションホワイト- 14
ぼくは顔から血の気がひくのを感じながら、少しでも解かなければと思った。そして、慌てて再びペンを持ち直した時、無情にも終了のベルはなった。
「はああああっ、最低、最悪。全部正解していても25点ぐらい。あああ、どうしても赤点だ。」
学年末のテストで、こんな大ポカをしてしまうなんて。時間さえあれば、ぼくには難なく解けた問題ばかりだった。「留年」という言葉が、頭をよぎった。
「おい早乙女、なに頭かかえこんでいるんだ。」
にやにやと笑いながら、ぼくを見下ろしているヤツがいる。カバだ。
「お前、まさかこのテスト、できなかったんじゃあないだろうな。」
けっけっけっ、と笑いながら、子分のタコスケの方を見ている。タコスケもカバを見ると、ぼくに言った。
「今日の数学は、簡単だったからなあ。平均点高くなるだろうなあ。」
くそっ。今日に限って、カバなんかによって来られた。カバのヤツ、この余裕はなんだ。いつもテストの後には青くなって教室から逃げ出しているクセに。
ぼくが何も答えないでいると、カバが続けた。
「えらい、機嫌が悪そうだな。まさか出来なかったんじゃあないだろうな。おっと、秀才のお前が、ほんとうに留年か。はっはっは、そいつはおめでたい話だ。おいタコスケ、スパゲティ喰いに行こうぜ。今日はオレがおごってやるから。」
「えっ、いいの。駅前のイタスパか。じゃあ、おれピザにしようかな。モッツァレラたっぷりのピザにね。」
カバとタコスケは、意味ありげに目を合わせては、にやにやと笑っている。あっ、そうか。カバのヤツ、カンニングしたな。タコスケがカバに答を教えたんだ。きっとそんなところだ。
「おうピザでもござでも、何でも喰え。今日は卒業が決まった、記念すべきテスト最終日だからな。」
じゃあな、と言いながら、カバとタコスケは、ぼくの頭を軽くはたいて、教室を出て行った。
「おまえ昨日、Webで・・・」
と言いかけて、やめた。昨日のことを話すと、ぼくの正体がばれてしまう。くそっ、カバの逆さ吊りのくせして。腹がたって腹がたって仕方なかったが、そんなことよりぼくには自分の進級問題が、目の前に大きくのしかかってきていた。なんだこいつ、というような少しいぶかしげなカバの視線を無視すると、ぼくは荷物をそろえて席を立った。
「何とかしなければ。あの数学の点数を何とかしなければ。」
ぼくは家に向かって、一心に自転車を漕いでいた。頭の中は、今日のテストのことでいっぱいだった。