
「名言との対話」1月10日、上田惇生「21世紀に重要視される唯一のスキルは、新しいものを学ぶスキルである。それ以外はすべて時間と共にすたれてゆく」
上田 惇生(うえだ あつお、1938年11月9日- 2019年1月10日)は、日本の経営学者。
埼玉県出身。浦和高校から慶應義塾大学経済学部卒。経団連に入り、広報部長などをつとめた後、ものづくり大学教授に就任した。
「マネジメントの発明者」とされるピーター・F・ドラッカーの主要著作のすべてを翻訳し、ドラッカーからは「最も親しい友人であり、日本での分身」とまでいわしめた人である。
翻訳は『プロフェッショナルの条件』ほか「はじめて読むドラッカー・シリーズ」四部作、「ドラッカー名言集」四部作、『エッセンシャル版マネジメント』の編集、翻訳のほか、『現代の経営』『経営者の条件』『断絶の時代』『イノベーションと起業家精神』『非営利組織の経営』『ネクスト・ソサエティ』『プロフェッショナルの原点』など。
上田先生との縁をさかのぼってみたい。
上田先生は、私が『図で読み解く!ドラッカー理論』(かんき出版)のゲラを見てもらって出版していいかどうかを相談した方で、野田先生と一緒に上野で会った。上田さんからは、私のみせた図解に対して「よく読んだ。しかし、このまま出せばドラッカーの本になる。あなたの意見をもっと入れなさい」とのアドバイスを受け、書き直した。ドラッカー関係の学者や信奉する実務家は多いが、その理論を図解を用いて解説した本は初めてだったので、2004年に刊行した「図で読み解く!ドラッカー理論」(かんき出版)が話題になったので、つぶやきに登場したところ、この本を読んだ人達との交流ができた。2016年に「もしドラ」が大ベストセラーになった時、この本を焼きなおして刊行した『図解で身につく! ドラッカーの理論』(中経の文庫)も連られてよく売れた。この本は中国、韓国で翻訳された。届いた翻訳本をみると、韓国はハングル文字なので、まったくわからないが、表紙のピーター・ドラッカーの顔写真と、本文中の図解の形をみると、私の本の翻訳本だなと見当がつく。中国版では、「徳魯克」という赤い文字が、ドラッカーと読むらしいことがわかる。ドラッカーのエキスを抜きだしたという意味で、「管理精粋」(粋の文字は日本語にはないので代用)という文字をタイトルにも使っている。いずれの本も、「図で読み解く!ドラッカー理論」の図の中のキーワードが、ハングルであったり、中国で使われている漢字であったりになっている。このキーワードを英語、フランス語、エスペラント語、などに変えていくことによって、どの国の人々もドラッカーの経営理論を理解できるようになるはずだと思った。この私の本は台湾でもすでに出版されており、ドラッカーは「杜拉克」という文字で翻訳されている。
韓国でドラッカー・ソサエティができるときに、講演する話があったが、スケジュールがあわなかった。ドラッカー学会ができるとき、発起人を仰せつかった。
2006年リーガロイヤルホテルで行われたドラッカー学会総会・ドラッカーを偲ぶ会に出席。上田惇夫代表、野田一夫顧問(「現代の経営」の監訳者、ドラッカーを日本に初紹介。多摩大学名誉学長)、小林薫理事(ドラッカーに関する著作は日本最多。産業能率大学名誉教授)、藤島秀記理事(ダイヤモンド社でのドラッカーの翻訳書の編集者。淑徳大学客員教授)などが挨拶。何人もの知り合いにあったし、新らしい出会いもあった。野田一夫「若い人が多くてびっくりした。定見にとらわれないのがドラカーの精神」。藤島「ドラッカーは日本の経営を自信をもって推進せよと言っていた。大いなる遺産を糧に」。ドラッカー学会会員はその当時、217名。経営者130人、学者30人ほど、コンサルタント22人ほど、マスコミ11人、、)毎日入会が積みあがっているとのことだった。
2010年にNHKの「クローズアップ現代」で、ドラッカーを特集していた。飲食、介護、ゲームなど様々の業界の人がドラッカーの経営書を読んで刺激をうけているという内容だった。ゲストは、コピーライターの糸井重里さんとドラッカーの翻訳を一手に引き受けている上田敦生先生だった。糸井さんの独特の解釈を嬉しそうに訊いている上田先生の表情が印象的だった。
2016年にオーディブルで上田惇生「60分でわかるドラッカー」を聴いた。ドラッカーの人生航路を追いながら、マネジメントの発明と進化を語る名講演だった。
ドラッカーの本は名言だらけであるが、その中で「21世紀に重要視される唯一のスキルは、新しいものを学ぶスキルである。それ以外はすべて時間と共にすたれてゆく」を、上田先生の遺言として採ることにする。過去に身に着けたものにこだわらず、新しいものを学んでゆく。その技術こそが、21世紀を活き活きと生きる知恵だということに感銘を受ける。人生とは学びの軌跡である。
図解で身につく!ドラッカーの理論 (中経の文庫)
作者:久恒 啓一