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「名言との対話」9月27日。小林司「『ホームズ物語』全体がドイルの心情告白である」

小林 司(こばやし つかさ、1929年3月21日 - 2010年9月27日)は、精神科医作家翻訳家

東京大学大学院博士課程修了。医学博士大宅壮一東京マスコミ塾第7期生。上智大学カウンセリング研究所教授を経てメンタル・ヘルス国際情報センター所長。

小林は熱心なエスペランティストとしても知られており、エスペラントについての入門書、あるいは開発者のザメンホフに関する著作も多く、共著・再刊を入れると100冊を超える著訳著を刊行している。またジークムント・フロイト研究でも有名な人である。

18歳年下の洋子夫人は東山あかねという筆名で、「二人で一人」と語っているように、シャーロック・ホームズ」関連の共著・訳を中心に共著で数十冊刊行している。1977年秋に小林・東山は日本シャーロック・ホームズ・クラブを創設した。

私は20代のロンドン駐在時に、パブ「ザ・シャーロック・ホームズ」をのぞいた記憶がかすかにある。 ホームズはベイカー街に住んでいたことになっている。夏目漱石はベイカー街の一本西のグロスター・プレイスに住むシェイクスピア研究家W・J・クレイグ教授のもとで個人レッスンを受けていた。そして1901年、ヴィクトリア女王の告別式を目撃している。それはイギリスの世紀の終りの象徴だった。

日本にもシャーロキアンは多い。小林はその代表格だ。架空の人物であるのに、全国に関連するものがあるのは珍しい。軽井沢にホームズ像、神戸異人館の英国館、大阪駅前第一ビル地下一階に英国パブ「シャーロック ホームズ」、、、。

まだ30代の頃、NHK「サラリーマンライフ」に出演した時に、小林司にスタジオでお会いしたことがある。当時は上智大学の先生だった。『サラリーマンライフ』は、1976年4月11日から1985年3月30日までNHK教育で放送されたテレビ番組。

二人の共著『シャーロック・ホームズ入門百科』(河出文庫)を読んだ。精神科医であった小林司は「「ホームズ物語」全体がドイルの心情告白である」と発表した。以下、ホームズの言葉を拾ってみよう。「精神を集中するコツは、済んだことを忘れることだ」「自分の行動は、法的にみると犯罪かもしれないが、道徳的には正しいのだ」「誰だって失敗するけれども、それを認めて、二度と誤りをくり返さないようにと反省できる人がえらい」「天才とは限りもなく努力する人のことだ(カーライル)」「人間の生存に不可欠ではない余分なものーーたとえばバラの花ーーの美しさを見ると、神があることがわかる。だから、美というもにに人間はもっと希望を抱くべきだ」、、、、、。

人がある著者や登場人物のファンになるのは、自分が感じていること、考えていることを登場人物が代弁してくれていると共感するからだ。シャーロック・ホームズの言葉は、小林司の言葉と理解しよう。

余談だが小林司のように医師で文筆家もあるという人物は多い。森鴎外山田風太郎渡辺淳一もそうだった。現役では帚木蓬生(1947年生)久坂部羊(1955年生)、海堂尊(1961年生)、朝比奈秋(1981年生)などの名前が浮かぶ。医師は肉体と精神の世界の探検家であるが、小説が代表する世界も同じフィールドなのだろう。特に脳や心を対象とする分野は医師には強みがある。二刀流の彼らは人間の神秘に迫ろうとする人々である。


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