
レトロ・ポップス流行の現代だからこそ聴くアメリカ史上No.1スタンダード・シンガー、パティ・ペイジ on YouTube
(6 min read)
1) I've Got It Bad & That Ain't Good
2) Don't Get Around Much Anymore
3) Do Nothin' Till You Hear From Me
4) I Let A Song Go Out Of My Heart
5) I Only Have Eyes For You
6) Stars Fell On Alabama
7) I'll String Along With You
8) Everyday
9) Everything I Have Is Yours
10) Don't Blame Me
11) A Ghost Of A Chance
12) We Just Couldn't Say Goodbye
アメリカ人歌手、パティ・ペイジのディスコロヒア盤CD『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』(2014)をエル・スールで買ったときだけ付属する特典CD-Rがありました。パティが1950年代に録音したジャズ系スタンダードばかり12曲集めた計36分間で、題して『パティ・シングズ・スタンダード』。
これがもう好きで好きでたまらないんだという話は以前一度書きましたね。憶えていらっしゃるかたもおいでかと思います。
CD『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』もエル・スールでいまだ在庫あり状態なので、もしその気がおありのかたはお買い求めいただければ『パティ・シングズ・スタンダード』が付いてきます。ぼくはエル・スールとなんら利害関係のない一般顧客ですけれど。
とにかく、パティがよく歌ったワルツ・ナンバーが多い『ニッポン人が愛したパティ・ペイジ』本体よりも、付属品のスタンダード曲集『パティ・シングズ・スタンダード』のほうがはるかに大好きで、ふだん聴き慣れているスタンダードだからこそ、パティのうまさ、持ち味がかえってよくわかるんじゃないかとすら思うんです。
もちろん個人的なグレイト・アメリカン・ソングブック系スタンダード・ソング愛好癖も手伝っての判断ではあります。それで、大問題は1950年代のマーキュリー・レーベル時代にパティが歌ったその手のスタンダードは、いまだどれ一曲としてCDでも配信でも正式リイシューされていないという事実。なんてこった!
非売品の私家版である『パティ・シングズ・スタンダード』の12曲をMusicアプリ(旧名iTunes)に入れ日常的に愛聴しているぼくは、ここまですばらしいんだからぜひみなさんとシェアしたいと考え、SpotifyやApple Musicでさがしたんですけど、ほんとうにどれもまったく見つからず。だからプレイリストをつくることができませんでした。悔しかった。
でもそういうときは<なんでもある>YouTubeの出番。さがしたら、なんとやはり、ぜんぶある!あるじゃないですか。CD-R『パティ・シングズ・スタンダード』の曲順どおり、一曲づつ拾っていってリストアップして、上にリンクをご紹介しておきました。
これらを聴けばですね、ひょっとしてパティ・ペイジこそアメリカン・ミュージック史上 No.1のジャズ系スタンダード・ソング・シンガーだったのかも?と思えてきますよ。コンピューター補正のない時代に音程はパーフェクト、デューク・エリントンがもとは器楽曲として書いたメロディ・ラインも<歌として>イキイキと歌いこなします。
発音がハキハキしていて明快で、ディクションもアーティキュレイションも完璧。声もきれいによく伸びているし、しかもジャズ歌手にはありがちの技巧的なフェイクはなし、ストレート&ナイーヴに曲の旋律を歌い、それでいてまぎれもなくパティだという個性が声質からしっかり聴きとれるっていう、こんな歌手、ほかにいましたっけ?
個人的愛好もさることながら、2022年にいま改めてパティ・ペイジのこういったジャズ系スタンダードに注目したいと思うのは、近年ジャジーなレトロ・ポップスが流行しているからです。そんな記事をこないだ書いたからこそ、それきっかけで『パティ・シングズ・スタンダード』のことを思い出したんですから。
パティのこういった歌もやはり<ロック台頭前夜>というような世界で、しかもこのストレート&ナイーヴなヴォーカル・スタイルが、現代のレトロ・ポップス流行時代に映えると思うんですよね。レトロ・ポップス・ブームのさなかにいる新世代歌手たちが参照しているのが、パティ・ペイジ(やドリス・デイやナット・キング・コールら)あたりじゃないかと。
パティが歌った1950年代には、こういったレパートリーやスタイルはレトロなものではなく、まだ新しいものとして時代の流行のさなかというか、ちょうど爛熟期。さらに電気・電子楽器やコンピューターも多重録音も一般的ではなく、だからいまでいういわゆる<オーガニック>・サウンドでもありました。
そんな時代に、パティ・ペイジは歌のうまさでひときわピカイチでした。タイムレスな音楽でもあるし、レトロ&オーガニックへの視線が最新流行であるような2020年代に、いま一度じっくり聴きかえしてみる価値のある歌手だと思います。
(2021.12.26)