ホレス・シルヴァーのブラス・ロック
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Horace Silver / Silver 'N Brass
ホレス・シルヴァー1975年の『シルヴァー・ン・ブラス』。これはたぶんブラス・ロック作品と呼んでいいでしょう。といってもアルバムの全六曲中、(ブラス・)ロックかなと思えるのは1、4、6曲目と三つだけですけど、ジャズ・ミュージシャンのつくったアルバムで半分あればじゅうぶん。しかもそれらのうち、1と4曲目はドラマーがバーナード・パーディなんですね(それ以外はアル・フォスター)。
アル・フォスターといえば、このホレスの作品、録音が1975年の1月なんですけども、アルはちょうどマイルズ・デイヴィス・バンドのレギュラー・メンバーでした。同月末から怒涛の来日公演もやった(なかで大阪公演は録音され『アガルタ』『パンゲア』となった)というような時期で、しかしこのホレスのアルバムではわりと穏当なジャズ・ドラミングに徹しているなという印象ですかね。もともとファンクというよりジャズ・ドラマーではありますが。
そのアルが叩いているブラス・ロックの話からしますと、ラスト6曲目の「ミスティシズム」。これはしかし8ビートではありますが、ロックというよりラテン・ナンバーですね。アルもがちゃがちゃとにぎやかなシンバル・ワークで雰囲気を出していますが、さすがはラテン好きのホレス、こういった曲は得意です。バンド人員のソロもよし。ホレスのピアノも光っていますが、なんといってもアルを中心とするリズムがいいですね。
んでもって、アルバム題どおり大編成ブラス(金管楽器)陣が演奏に参加しているわけですけど、それはホレスではなくウェイド・マーカスがアレンジを書いていて、しかも録音も別で、オーヴァー・ダビングしてあるものなんですね。だからブラス・ロックといってもちょっとあれなんですけれども。1、4、6曲目以外はストレートなビッグ・バンド・ジャズといったおもむきです。
アルバム1曲目の「キシン・カズンズ」。幕開けがいきなりこれなんで、保守的なジャズ・リスナーなら出だしでけっこうなパンチを喰らうようなフィーリングですね。冒頭からビッグ・サウンドが鳴りますし、それが8ビート・ロックのリズムに乗って演奏しますからね。1975年ですからいわゆるブラス・ロックなどは下火になっていた時期で、だから流行に乗ったわけじゃなかったのかもしれません。遅れただけ?ボグ・バーグのテナー・サックス・ソロはコルトレイン・ライクでかなり聴けますね。
ここでまたマイルズ関連の話ですが、ボブ・バーグって1984年から数年間マイルズ・バンドで吹いていました。カム・バック・バンドのビル・エヴァンズの後任で。マイルズのところでは音楽性の違いというか、どうもパッとしなかったような印象がありますが、このホレスのアルバムではかなり出来がいいと思えます。1975年ですからまだ新人だったんじゃないでしょうか。4拍子のジャズ・ナンバーでも聴かせます。
4曲目「ザ・ソフィスティケイティッド・ヒッピー」。この曲題はデューク・エリントンへのオマージュでしょうね。しかし曲想にエリントンふうなところはまったくなく(3曲目「ダムロンズ・ダンス」もタッド・ダムロンへの言及でしょうけど、音楽的には関係なさそう)、ホレス独自のファンキー路線ですね。こういったリズムでブラス陣が炸裂すると本当に快感です。やはりボブ・バーグのテナー・ソロがかなりよし。ボスのピアノ・ソロがいいのはもちろんです。やや哀愁をともなった曲のメロとコード展開も魅力です。
(written 2020.6.22)