アーリー・ジャズは Spotify で聴きにくい、かも?
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https://open.spotify.com/playlist/3mlZIEPzdEg5H0CoIhoeBd?si=rqE508d4S3aVYWTI_Bu94w
ビ・バップ以前のアーリー・ジャズのことを書く機会がめっきり減って、ジャズといえばモダン・ジャズのことばかり書くようになったのは、ふだん音楽を CD(やそこからインポートした Music アプリ)ではなく Spotify で聴いているせいだと思うんですよね。モダン・ジャズだと、ビ・バップ時代はまだ SP ですがすぐ LP に移行したし、ハード・バップ以後は完璧に LP がメディア。だからレコードや CD で見るのと同じアルバムがそのまま Spotify にあります。
ところがこれが戦前の古典ジャズ(や古いブルーズも)の世界となると、ほぼ100% SP の時代だったわけですよ。片面一曲づつの両面二曲の単位でリアルタイムでは売買されていたんで、それがオリジナル・フォーマットです。ってことはその後のどんな LP / CD アルバムも再発の「編集盤」でしかありません。実際リイシューを担当するレコード・プロデューサーがどんな曲を選択するか考えて、これを入れようこれは外そうとあれこれやって、アルバム体裁を整えていたわけです。
LP から CD へと移行したことで、古典ジャズや古典ブルーズのアルバム(=編集盤)の世界も変わりました。むかし LP で発売されていたフォーマットそのまま CD リイシューされるばあいだってありますが、多くは編集しなおされ新たにリリースされた新編集盤となっていましたよね。もとが一曲単位の存在なんですから、どんなアルバムにも「正統性」なんかありません。編集・発売されるそのときそのときの方針と都合があるだけです。
そんなわけで戦前古典ジャズ(やブルーズ)の音源リイシューが LP と CD で食い違うことになっているわけですが、配信の時代になってまたもう一回この事態が発生しているんじゃないかと思えるんです。Spotify にある1920〜30年代のルイ・アームストロングのオーケー録音にしろテディ・ウィルスンのブランズウィック・セッションにしろライオネル・ハンプトンのヴィクター・セッション集も、それからジャンゴ・ラインハルトのスウィング・セッションだって、どのリイシュー CD を参照したのかソースにしたのか、わからないんですよね。
Spotify にあるそれらは、どれをソースにどこから持ってきたのかもわからないまま、ただズラ〜っと並んでいるだけで、そこにはかつての LP 再発、CD 再発の名盤で聴けたような明快な編集方針もなくただなんとなく並べてあるだけだから、きわめて聴きにくいんですよ。クロノロジカルな全集で聴けるようにするんじゃないかぎりすべてがコンピレイションなんですから、「こう並べてこう聴かせよう」みたいなポリシーがないとどうにもとっつきにくくて、だからそれで音楽ライフのほとんどが Spotify でということになっているぼくは、いくら戦前古典ジャズが好きでも、無意識のうちにだんだんと疎遠になっていたかもしれません。
そんなわけで戦前古典ジャズ音源にかんしては、よくプレイリストを自作します。Spotify にあるままだととても聴きにくいんですから、かつてぼくも親しんでいた LPリイシュー名盤の選曲・曲順に則して一曲づつピック・アップして並べなおしたコンピレ・プレイリストをつくって、ふだんそれで聴いているんですね。そうやってプレイリストを作成した戦前古典ジャズについてはいままで記事にしています。
こんなことがすべてなもんですから、オリジナル・アルバムがそのまま Spotify にもあるというモダン・ジャズの世界とは事情がかなり異なっているんですよね。個人的な願望としては LP レコード時代にあんなにたくさん戦前古典ジャズ名盤(つまり編集盤)アルバムがあったんですから、Spotify でもそれに準じて曲を並べてアルバムとし聴けるようにしてくれたらうれしいんですけど、実現可能性は0%ですよねえ。
サッチモことルイ・アームストロングの1920年代音源という最大最高の至宝ですら、なんだかよくわからないアルバム、だかなんだかもわからないものでダラ〜っと Spotify には存在しちゃっているんですから。だからほかのジャズ・ミュージシャンの戦前音源なんて、こりゃいったいなんだ?というようなアルバム?だかなんだかでしか並んでいないんです。
こりゃあ〜、ダメだ。ぼくも CD しかないものはそこからインポートした Music アプリで聴きますが、その比率をもっと増やさないといけないのかもしれないですね。
(written 2020.3.9)