ちょっぴりミナスなブラジリアン・ラージ・アンサンブル 〜 ジャズミンズ・ビッグ・バンド
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Jazzmin’s Big Band / Quando Eu Te Vejo
全員女性で編成されたブラジルのジャズ・ビッグ・バンド、ジャズミンズ・ビッグ・バンドのデビュー作『Quando Eu Te Vejo』(2021)がちょっとした佳作。均整のとれたアンサンブルでブラジル音楽の豊かな伝統とコンテンポラリーなセンスとの融合に成功しています。バンド名の「ジャズミン」っていうのはジャズとジャスミンをひっかけてあるんでしょう。
管楽器担当だけで十人以上いるという大所帯。ジャズ・ビッグ・バンドとして、北米合衆国の伝統的なマナーをある程度は受け継ぎながらも、かなり顕著にMPB的な表現をも顕在化させているところが、現代ブラジル人音楽家らしいところですね。
全体的にはクールでおだやかな美しさが目立つ本作、ややミナス音楽的とみなすこともできるんですが、サンバ、ボサ・ノーヴァなリズム活用が軸になっているんじゃないでしょうか。オープニングの1曲目はなんでもない感じですが、2曲目「7×1」でいきなり躍動的なサンバ・ジャズを展開して、こ〜りゃいいなあ。
4曲目「Fácil Vem」にはややファンキーさすらあって、ピアノが奏でるブロック・コードのリフがなんともチャーミング。ホーン・アンサンブルは(どの曲も)おだやかですが、基底になっているリズム構造に着目したいですね。4曲目ではギターやサックスのソロもいいです。
そうそう、ソロといえばですね、だいたい本作ではそんなにたくさん聴けるというわけじゃありません。個人奏者のインプロ・ソロよりもどっちかというとアンサンブルに比重が置かれていて、そのバランスというか、ソロの連続で曲ができあがるというふうにはなっていないんで、このへんはアメリカ合衆国の現代ラージ・アンサンブルと共通する点ですね。
5曲目「Radamés Y Pelé」。こ〜れが絶品なんですよ。アルバム中ぼくはこの曲がいちばん好きで、サウンドの美しさに息を呑みます。ほんのり軽いボサ・ノーヴァ・リズムに乗せられたホーン・アンサンブルのたおやかさが、現代ブラジル音楽の最良の美点を表現しています。アントニオ・カルロス・ジョビンの書いたこの曲、タイトルはラダメース・ニャターリ(作曲家)とペレ(サッカー)のことですか?
6曲目でもブラス群に特徴のある多層にレイヤーされたホーン・サウンドに酔うような気分になれるし、ジョアン・ジルベルトも歌ったドリヴァル・カイーミの9曲目「Doralice」ではちょっとおどけるようなユーモラスさを強調する演奏になっていて、思わず微笑み。
(written 2021.12.19)