完成度の高いアフロ・カリビアン・ジャズ 〜 マリオ・カノージュ、ミシェル・ゼニーノ
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Mario Canonge, Michel Zenino / Quint’up
これはたしかディスクユニオンのツイートで見つけたやつ。ご存知のようにその後現在にいたるまで同店のオンライン・サイトは閉鎖中ですから、日本語情報なしで書かねばならないのはちょっぴりつらいところ。なんとか音楽の楽しさに引っ張られるようにやっていきましょう。
マルチニーク出身のピアニスト、マリオ・カノージュとマルセイユのベーシスト、ミシェル・ゼニーノの双頭ジャズ・クインテットによるアルバム『Quint’up』(2018)がなかなか楽しいと思います。すくなくともぼく好みのジャズ。
音楽的には1965〜68年のマイルズ・デイヴィス・セカンド・クインテットやそれ由来のいはゆる新主流派、つまりポスト・バップ作品なんですが、そこに新主流派には薄かったカリビアン・テイストを濃厚に加味したような感じ。
メインストリームな4/4ビートとカリブ由来の8ビート系を縦横自在に行き来したり混ぜたりするところに本作最大の聴きどころがあるみたいで、そうしたミックス・リズムには主役のマリオはもちろん、ドラムスのアルノー・ドルマンもかなり貢献しています。
1曲目のテーマ演奏部 → ソロ・パートへ移行する瞬間からそれは明確にわかります。リズムがパッとチェンジするんですよね。ソロ部は一貫してメインストリームな4ビートですが、それでも各人のソロをつなぐブリッジ部分では複雑な8ビートに転換するし、ソロが演奏されているあいだもドラムスがいびつなアクセントを入れたり。
2曲目のタイトルが「Calypsonge」で、そのまんまカリプソ・ジャズ。こういうのはべつに目新しいものでもなく、ソニー・ロリンズが「セント・トーマス」(1957)ですでにはっきりやっていたもの。その他メインストリーム・ジャズにも古くからカリプソ要素はあるので、そうした伝統に沿った一曲ということなんでしょうね。これも楽しい。
アルバム中いちばん耳を惹くのは4曲目「Not Really Blues」。基本的にはハード・バップなんですが、アフロ・キューバン・テイストが濃厚で、特にアルノーのドラミングにそれが顕著。しかもソロ・パートでは4ビートで進行しつつカリビアン8ビートを混在並存させています。
その他の収録曲はまずまずメインストリームなストレート・ジャズでしょうが、そんななかにも随所でリズム面でのアクセント付けや工夫は聴かれます。こうみてくると、アフロ・キューバン/カリビアンな要素は通常的なジャズのなかにも歴史的に頻出してきたものなので、本作がことさら目立ってすばらしい、あたらしいというわけでもない従来ジャズかもしれませんが、こなれた完成度の高さはみごとでしょう。
(written 2022.7.12)