しんどいときに聴く音楽(70)〜 クリスチャン・マクブライド
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Christian McBride / Where Are You?
先週クリスチャン・マクブライドの弓弾きのことに言及したらやっぱり思い出しました、「ウェア・アー・ユー?」のことを。マクブライド自身のアルバム『カインド・オヴ・ブラウン』(2009)のラストに収録されているこれが、まさに宝石のよう。
もちろん弓弾きなんですが、曲はわりとよく知られたスタンダードで、歌詞もあって多くのジャズ歌手が歌っています。「私をひとり残して、あなたはどこへ行ってしまったの?あなたなしなんて考えられない」というロスト・ラヴの歌なんですが、マクブライドはピアノ一台だけを伴奏に据え、アルコでどこまでも美しくつづっています。
ぼくがいままでの人生で聴いたすべてのコントラバス演奏のなかで最も美しい弓弾きがこのマクブライドの「ウェア・アー・ユー?」に違いありません。聴いているともう泣いちゃいそうなぐらい。マジで至高の演奏。
弓弾きコントラバスの音程がきわめて正確なのも演奏の美しさを強調しています。ジャズ・ベーシストはピチカートを常用しますから、そのへんが多少あいまいでもふだんさほど問題にならないんですが、弓で弾いたときにバレてしまうんです。ところがマクブライドのこの演奏では完璧に正確。
音色もきれいでおだやかに丸いし、コントラバス演奏における100点満点の理想を実現していて、それでもってこの切なく哀しく美しいメロディ・ラインを、インスト演奏だけどまるで歌詞の意味をかみしめていくかのごとくナイーヴ&ストレートに弾くさまには感嘆のため息しか出ません。
(written 2024.1.1)