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ラテンなハード・バップのB級作品 〜 ベニー・グリーン
(5 min read)
Bennie Green / Back on the Scene
なんでもトロンボーンという楽器を「鈍くさい」といって嫌うひともいると知ったのは、2005/6年ごろ、mixiでのこと。ジャズ・コミュニティでおしゃべりしていてでした。世のなかホントいろんな嗜好があるもんです。
そんな嫌われもの?ジャズ・トロンボーン奏者のひとり、ベニー・グリーン(Bennie Green)が残したアルバムのなかでぼくが最も好きなのは、1958年の『バック・オン・ザ・シーン』。まずなんたってジャケットがいいです、渋いけど味があって。
それ以上に、アルバムの大半でラテン・リズム・フィールが横溢しているのが最高に好み。ハード・バップにだってよくあるパターンではありますが、ここまでラテン・テイストで一貫している作品というのも少なかったのでは。いや、ジャズのなかにラテンは抜きがたい要素としてありますけれども。
といってもですね、本作の全六曲中、最後の二曲でラテン・リズムはまったく聴けません。ごくありきたりのハード・バップです。ぼくが言っているのはその前の四曲ってことなんですね。
1曲目の「アイ・ラヴ・ユー」なんか、コール・ポーターの書いたなんでもないスタンダード・バラードなのに、出だしのこのリズムを聴いてください。ピアノ(ジョー・ナイト)とドラムス(ルイス・ヘイズ)が共同でラテン・リフを演奏しているでしょう、それがイントロで、サビを除くテーマ演奏部だってラテン風味。
こういうのがぼくは大好物なんです。この曲もソロ・パートになるとメインストリームな4/4拍子で演奏しているっていう一般的なハード・バップ・マナーですけどね。最終テーマ演奏部はやはりラテン・ビートを効かせてあって、イントロと同じラテン・リフをアウトロとして使い、そのままフェイド・アウト。
2曲目「メルバズ・ムード」なんか、もう完璧なるラテン官能バラード。この手の曲想にはトロンボーンという楽器の音色がよく似合います。作曲者のメルバ・リストンもジャズ・トロンボーン奏者ですよ。
ここでのベニーらによるヴァージョンは、アフロ・キューバン好きだったホレス・シルヴァーによる1958年当時のタッチを思い起こすよう。「セニョール・ブルーズ」とか、あの手のやつ。「メルバズ・ムード」も最高の一曲です。
3曲目がおなじみのスタンダード「ジャスト・フレンズ」で、これも1曲目同様テーマ演奏部でラテン・リズムにアレンジしてあるっていう(ソロ・パートはメインストリーマー)。このへんまでくれば、ラテン・リズムがベニーのこのアルバムを通底するムードなのかも?と気づきます。
4曲目「ユア・マイン・ユー」はとてもプリティでリリカルなバラード。ラテンの片鱗すらない感じで進みます。しかしその前半のベニーのトロンボーン・プレイがチャーミングできれいで、こういったバラードをつづるのにトロンボーンという楽器はまたとない絶好の楽器だと納得しますよね。
二番手で出る短いテナー・サックス・ソロ(チャーリー・ラウズ)も雰囲気をそのまま引き継ぎますが、すぐまたふたたびベニーのトロンボーンにチェインジして、そのまま最後まで。ベニーによるテンポ・ルバートのコーダ部になって、あぁ終わるんだ、と思った刹那、突如ピアノとドラムスがラテン・リフを演奏するんです。
ほんのちょっとのあいだのことですけれど、これがこの曲の演奏全体のいいアクセントになっているじゃないですか。コーダ部でこうやってラテン・フックを軽く効かせることで、バラード・ナンバーとしてのコクと深みが出ています。
特にどうってことない、この時期のブルー・ノート・レーベルにはたくさんあったありきたりのB級作品ではありますが、ふだんセロニアス・モンクのもとで演奏しているときよりもハツラツとしているように聴こえるチャーリー・ラウズもいいし、なかなかどうして見過ごせない一作ですよ。
(written 2021.10.11)