1970年のオリジナルよりずっといいぞ 〜 デイヴ・メイスン『アローン・トゥゲザー・アゲン』
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Dave Mason / Alone Together Again
UKロッカー、デイヴ・メイスン1970年の名作『アローン・トゥゲザー』。このブログでも以前とりあげて書いたファースト・ソロだったわけですが、なんとびっくり昨年本人がこれをそっくりそのまま再録音した新作『アローン・トゥゲザー・アゲン』(2020)というものを出してくれました。
1970年オリジナルのジャケットはこれ↓
曲目も曲順もすべてピッタリ同一にしたもので(曲題はちょっぴりいじっているものもあり)、ちょうど半世紀、50年後の<再現>というわけです。公式サイトに書かれてあるメイスン自身のことばによれば、第一作というものはその音楽家を物語っているものであるが、自分もそう、いまだに『アローン・トゥゲザー』を愛しているし、そこから多大なインスピレイションをやはり得ていると。
それから、ユニヴァーサルの倉庫火災でオリジナル・テープが消失してしまったことは本人にとっても大きな悲しみだったようです。昨年初春来のコロナ禍も過去の自己を見つめるいい機会だったかもしれません。それらさまざまな理由で『アローン・トゥゲザー』にもういっぺんとりくんでみようとなったんでしょうね。
1970年のオリジナルはUKスワンプ・ロックの名作だったわけで(しかし個人的にはあまりそれを強く感じませんが)すけれども、個人的印象からしたら今回の『アゲン』のほうがずっと好きですね。大幅にヴァージョン・アップしたように思え、名作とされる70年のオリジナルを超えた秀作に仕上がったんじゃないでしょうか。
メリハリがかなりしっかり効くようになっているし、サウンドの輪郭が鮮明になっています。収録の八曲、すべて70年にやったのと同じものですが、演奏者も違えばアレンジも新しくなっているということで、特にドラムスとエレキ・ギターのサウンドが大幅に更新されていますよねえ。キラキラしているし、それに引っ張られて高齢のはずのメイスンのヴォーカルだって若々しく響きます。女性コーラスもいい感じだなあ。
70年のオリジナルはちょっと曖昧模糊としているっていうか、モコモコした印象のサウンドだったと記憶しているんですけど、それはあの時代のスワンプ・ロック全般に共通する特色でした。フィル・スペクター流ウォール・オヴ・サウンドの影響もまだ強かった時期で、ヴェールにつつまれているかのようなボワ〜っとした音像もあの時代のロック・サウンドでしたよね。
今回の『アゲン』ではそういった霧が晴れて視界鮮明になったなと、クリア・サウンドになってずいぶん聴きやすくなったなと、そう思うんです。音がクッキリしているというか、もちろん録音テクノロジーの進歩といったことも理由の一つでしょうけど、やりなおした結果、音響面だけでなく音楽的にも整理され、グンと印象がアップしているんじゃないですか。
かなり違った音楽に変貌した曲もあります。特に5曲目「ワールド・イン・チェインジズ」とラスト8曲目「ルック・アット・ミー・ルック・アット・ユー」。今回はどっちもレゲエ/ダブふうな処理がはっきり聴きとれるのが新鮮です。オリジナルは70年ですからロック界にまだレゲエが流入していなかった時期。大胆にアレンジを変えましたよね。
特に8曲目「ルック・アット・ミー・ルック・アット・ユー」では、全9分間の約半分までは通常のロック・ナンバーで、中盤でちょっと演奏がテンポ・ダウンして止まりかけたあたりからパッと風景が変貌、突如レゲエ・リズムに変化してダブふうな音像処理が入ります。ブルーズ・ロックふうでサイケデリックな長尺ギター・ソロも活躍し、かなり聴かせます。
(written 2021.4.10)