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なんてことない作品だけど 〜 グラント・グリーン『ナイジェリア』

(4 min read)

Grant Green / Nigeria

1980年になって発売されたグラント・グリーンのアルバム『ナイジェリア』。録音されたのは1962年の1月13日のワン・セッションでのことでした。以下のジャケットもあります↓。この手のジャケット、わりとありますよね、マイケル・カスクーナによる発掘ものシリーズということでしょうか。じゃあ上の緑色のカヴァー・デザインはいったいなんでしょう?リイシュー時のもの?わかりませんが、こりゃもうどう見ても上の緑色カヴァーのほうが魅力的ですよね。

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だからぼくも上の緑色ジャケットで親しんでいるというか、それで見てはじめて聴いてみようという気になったくらいですね。アルバム『ナイジェリア』は全五曲中、1曲目の「エアジン」(ナイジェリアの逆綴り)だけがソニー・ロリンズの手になるジャズ・オリジナルで、ほかはすべてティン・パン・アリーのポップ・ソングがスタンダード化したものです(2「イット・エイント・ネセサラリー・ソー」はオペラ・チューンだけど)。「エアジン」もジャズ・スタンダードになっていますから、要はすべておなじみの曲ばかりということですね。

編成はグラント・グリーンのギターにくわえ、ソニー・クラーク(p)、サム・ジョーンズ(b)、アート・ブレイキー(d)のカルテット。これでなんてことのないモダン・ジャズを展開していると思うんですけど、アルバムの短さとあいまってなんだかこじんまりと整った小品といったおもむきがぼくは好きなんですね。主役のギターリストもふくめ四人は特に主張せず、淡々とプレイをこなしているのが好印象です。

個人的には若いころからずいぶん長いあいだ、こういった地味で特徴のないアルバムはきらいでした。どこにもひっかかるところがないっていうか、ここが聴かせどころだっていうもりあがり、クライマックスもなく、ただ全編なにげなくやっているだけのモダン・ジャズなんて、どう聴いたらいいんだろう?という気分で、たしかに新奇でめずらしいもの、時代をかたちづくった名盤なんかを中心にずっと聴いてきた音楽ライフだったかもしれません。

ところが最近この『ナイジェリア』みたいななんでもないアルバムも楽しめるようになってきて、たぶんそれも一種の加齢現象ですよねえ。雰囲気中心に、部屋のなかでこういった音楽を流しながらなんとなくいい気分にひたって、といっても40分もないんですぐ終わっちゃいますけど、ひとときのリラックス・タイムを過ごすというのが好きになってきましたね。モダン・ジャズでなくてもくつろげる音楽であればなんでもいいんです。

それでもアルバム『ナイジェリア』では、ブルーズに解釈して10分以上もやっているガーシュウィンの「イット・エイント・ネセサラリー・ソー」なんかはなかなか聴きごたえのある演奏じゃないでしょうか。全体的にクールに淡々とやっているなという印象のあるこのアルバムのなかではちょっと熱く燃え上がり、グラントはお得意の定型フレーズ延々反復も繰りだしています。続く3曲目コール・ポーターの「アイ・コンセントレイト・オン・ユー」やラストのジェローム・カーン「ソング・イズ・ユー」は原曲のメロディがいいので、リラックスしてストレートに演奏するだけでじゅうぶん聴けますね。

1962年のワン・セッションで録音されたこれらを当時アルフレッド・ライオンがお蔵入りにしたのは、たぶん(オルガンもまじえたりなどして)ファンキー&ソウルフルにやっているいつものグラント・グリーン節ではなく、ちょっとイメージの異なる穏当なハード・バップだったからじゃないでしょうか。

(written 2020.6.11)


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