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ジャジーなサンバ・カンソーン 〜 マルシア
(4 min read)
Marcia / Prá Machucar Seu Coração vol.1
bunboniさんに教わりました。
ブラジルの歌手、マルシア…、って実はネットで検索する際ちょっと困っちゃうんですよね。日本で活動する演歌歌手のマルシアがいるでしょう、猪俣公章の弟子だったそのマルシアも(日本系三世の)ブラジル出身で、アルファベット文字での綴りも同じ。「ブラジル マルシア」だけのキーワードでは演歌のマルシアばっかり出てきちゃいます。困っちゃうな〜。
ともかく、こっちはブラジルで活動したブラジル人歌手のマルシアのアルバム『Prá Machucar Seu Coração vol.1』(1995)。アルバム題はジョアン・ジルベルトも歌った有名曲「Prá Machucar Meu Coração」のもじりですね。大好きな一曲で、だからそれを見ただけでちょっと聴いてみたくなるっていう。
それにしても「Prá Machucar Meu Coração」っていう曲、作者はアリ・バローゾだったんですね。アントニオ・カルロス・ジョビンじゃなかったんだぁ、恥ずかしいです。大学生のころ『ゲッツ/ジルベルト』が愛聴盤だったぼくは、あのアルバムA面にあったこの「プラ・マシュカ・メウ・コラソン」が大のお気に入りで、あのアルバムはジョビンの曲を集中的にとりあげたものだから、と思ってよく確認していませんでした。
その「Prá Machucar Meu Coração」がきょう話題にするマルシアのこのアルバムでも4曲目に収録されています。これがとってもいい内容じゃないでしょうか。イントロ〜無伴奏での歌い出しあたりはそうでもないですが、パッとリズム伴奏が入ってきてからが極上のムード。でもって、これはサンバのリズムですよね。ベース、打楽器群がそれをわりとはっきり表現していると思います。
しかしカーニヴァル向けのダンサブルなサンバじゃなくて、すわって聴くための歌謡サンバ。だからbunboniさんのおっしゃるようにサンバ・カンソーン的な資質の歌手だったということになりますね。しかし一般にサンバ・カンソーンに分類されている多くの歌手たちみたいなねっとりと粘りつく湿度はマルシアにはなく、もっとアッサリ乾燥風味。だからそこを取るとボサ・ノーヴァ歌手っぽいとなる評価もなんだかわからないでもないっていう。
しかも伴奏のバンド演奏にはジャジーなテイストもあって、実際よくわかんない、けど上質、っていうアルバムですねえ。しっとりした(しばしばテンポ・ルバートな)バラード調のものも悪くないんですけど、個人的には軽いビートが効いてテンポのいい、つまりサンバっぽいアレンジで演奏・歌っているものが大の好み。
だから4曲目「Prá Machucar Meu Coração」とか、8曲目「Errei...erramos!」とか、11曲目「Não Me Diga Adeus」あたりがなんともいえず心地いいですね。とくに8曲目、これは最高の逸品ですよ。バンドの演奏するリズムやシンセ・リフ(たぶんピアノ奏者が弾いている、しばしばMIDI同期で)なんかも快感で、その上に乗るマルシアの歌うメロディの動きがなんともいえないサウダージ。も〜う、なんべん聴いてもタメイキが出ちゃいます。この雰囲気ですよ。
(written 2020.9.26)