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聴きやすいチャック・ブラウン『バスティン・ルース』

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Chuck Brown and the Soul Searchers / Bustin’ Loose

ひさしぶりにチャック・ブラウン&ザ・ソウル・サーチャーズのアルバム『バスティン・ルース』(1979)を聴きました。思い出したきっかけは、六月にミック・ジャガー(ローリング・ストーンズ)が「最近聴いているもの」というプレイリストにこれのアルバム・タイトル曲を選んで入れていたからで、あのプレイリストを聴いていて曲「バスティン・ルース」が流れてきて、あぁこれはやっぱりいいなと感じ入りました。

もちろんワシントンDCのいわゆるゴー・ゴー・ミュージックの代表作なわけですけど、1979年ですからね、まだゴー・ゴーが世間的にはブレイクする前の作品です。ゴー・ゴーの流行ってたぶん1980年代半ば〜後半だったと思いますから、その数年前にそれがすでに確立されていたという見方ができますね。チャック・ブラウンはもちろんゴー・ゴーのキングで、アルバム『バスティン・ルース』もその代表的傑作とされるものです。

ですが、今回聴きなおしてみて、いわゆるゴー・ゴーの枠内には決して収まらない幅の広いアルバムでもあるなとの感想を持ちました。1曲目「バスティン・ルース」が典型的にそうであるように、ゴー・ゴーはとにかくダンス・ビートで、BPM100くらいのテンポで、延々とリズムを強調しながら、クラブなんかでは一晩中演奏しているという、そういったものですが、レコード収録ということで短めに刈り込まれています。

これがしかしのちのゴー・ゴー・バンドとかになると、レコードなどでも一曲10分超えもあたりまえで、そりゃあダンスのための音楽なんだからそのほうがいいわけで、スローでメロウなフィーリングの曲もあまりなく、っていう感じになっていったんですが、チャック・ブラウンのアルバム『バスティン・ルース』だとジャンルの先駆にして、聴きやすい音楽としてまとまっているなとの印象も強いです。

ゴー・ゴー・ビートの1曲目「バスティン・ルース」も、ダンスにいいけど聴いても楽しくて、このビート感としゃべるように歌うチャックのヴォーカルとバンドの演奏が、ダンス・ビートばかり強調しすぎない中庸なというか、部屋で聴くのにもちょうどいい感じの曲として完成されていますよね。しかもなんだかジャジーでもあります(アルバム全体に言えることですけど)。

2曲目はジェリー・バトラーの曲で、メロウなラヴ・バラード「ネヴァー・ゴナ・ギヴ・ユー・アップ」。これなんかきれいなソウル・ナンバーですよね。ゴー・ゴー・バンドの本拠地だったライヴ・クラブなんかでは息抜きとして作用したのかもしれません。スロー・ナンバーはもう一曲あって、5曲目の「クッド・イット・ビー・ラヴ」。これもきれいなラヴ・バラードですね。

これら二曲以外はやっぱりダンス・ナンバーですけど、曲が長すぎないし、アルバム全体でも39分と、集中して聴くのにちょうどいい頃合い。ゴー・ゴーがどうとかいうんじゃなく、聴きやすいソウル/ファンク・ミュージック作品として、部屋のなかでちょっと膝をゆすったりするものとして、適切なアルバムじゃないかと思いますね。

アルバム・ラストの7曲目「ベロ・イ・ソンバロ」にはラテンな香味もただよっていて、なかなか味なファンク・ナンバーです。なお、このアルバムで、というか当時のチャック・ブラウンのバンドでドラムスを叩いていたリカード・ウェルマンとは、すなわちマイルズ・デイヴィスが1987年に雇い、マイルズのラスト・ドラマーになったリッキー・ウェルマンそのひとです。

(written 2020.7.14)


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