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冬の夕暮れどきに 〜 原田知世「いちょう並木のセレナーデ」

(4 min read)

原田知世 / いちょう並木のセレナーデ

原田知世2019年のアルバム『Candle Lights』9曲目に収録されている「いちょう並木のセレナーデ」がホントいい。この時期、真冬のちょうど日が暮れかかってきたような時間帯にでも聴くとしんみり沁みてきて、心おだやかになります。

もちろん小沢健二のオリジナル(1994『LIFE』)ですが、でもオザケンで聴いてもあまりピンと来ないのに、知世カヴァーで聴くとこんなにもいいっていう、だからこれまたプロデュース&アレンジをやった伊藤ゴローの仕事がみごとだっていうことでしょう。

いい曲でも、だれが歌うか、どんなアレンジでやるか、によって生きたり死んだりすると思うんですよね。歌というものもまたこのひとっていう決定的表現者を得るということがあると思います。それではじめて生命を吹き込まれるんです。

知世&ゴロー・ヴァージョンの「いちょう並木のセレナーデ」、実は以前2016年の『恋愛小説2〜若葉のころ』の、それも初回限定盤だけの末尾に(ボーナス・トラックとして)収録されていました。それが初出で、ぼくはそれを買ったと思うんですが、Spotifyだとグレー・アウトしていて聴けなかったんですよね。

一つの新曲と三曲のリミックスをふくむバラード再録集である2019年の『Candle Lights』に入ったことで、その収録曲としてようやくサブスクでも聴けるようになり、同時に『恋愛小説2〜若葉のころ』のトラックリストでも解禁されました。どっちで聴いても同じもの。

知世の「いちょう並木のセレナーデ」はスティール弦アクースティック・ギター一台だけの伴奏で歌われています。弾いているのがだれなのか、やっぱり伊藤ゴローか、『恋愛小説2』も『Candle Lights』も買ったはずのCDがどこにあるのやら、平積みカオス山脈のなかにまぎれこんでいますから、確認できません(公式HPに載せておいてほしい>ユニバーサルさん)。

でもそのアクギ一台だけの伴奏で静かにおだやかにしんみりとていねいに歌う知世のヴォーカルは極上の味わい。特にどうという工夫や技巧もこらさないというか、そもそもそんなもん持っていない歌手なわけですけど、そんなアマチュアっぽさというか、ナイーヴで素直なスタイルが活きる曲というのが、こないだ書いた「新しいシャツ」(大貫妙子)であり、「いちょう並木のセレナーデ」ですよ。

(たぶんゴロー自身が弾いているんであろう)ギター伴奏だけにしたというプロデュースが曲と歌手の持ち味を最大に活かすことにつながっていて、そういった曲をうまく見つけて拾ってくるのも絶妙ですが、知世の持つ生来のヴォーカル資質がなんともいえないうまあじを聴かせています。

二人の別れの光景をふんわり淡々とふりかえっている内容の歌で、決して激しく鋭いトーンや濃い味はここになく、背伸びしない等身大で身近な空気感、さっぱりしたおだやか薄味な淡色系音楽のすばらしさが心の空腹に沁みわたり満たされていく思いです。

(written 2022.2.8)

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