レイジー&ブルージーなクリスマス 〜 ノラ・ジョーンズ
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Norah Jones / I Dream of Christmas
数日前にノラ・ジョーンズの新作アルバム『アイ・ドリーム・オヴ・クリスマス』(2021)がリリースされました。キリスト教圏の音楽界では定番のクリスマス・アルバムで、この文章を書いているのはまだそのムードのない10月中旬ですけれど、リリースされたばかりのホットな時期に書いておいて、イヴの日が来たら上げましょう。
有名クリスマス・キャロルと、先人ポップ歌手が歌ってきたクリスマス・ソング・スタンダードに、このアルバムのためのノラの自作新曲も数個まじえ、おなじみブライアン・ブレイドを中心とするジャズ・バンドがアクースティックな伴奏をつけています。
ノラのヴォーカルについてはスモーキーという形容詞がよく使われるわけですが、個人的にはそれをブルージーと言いかえてもいいように前から感じています。ジャジーというよりもブルージーあるいはソウルフル、それがぼくの実感。
ピアノ演奏もそんなタッチですし、ヴォーカル・スタイルもあわせ、ひとことで言ってレイド・バックしている、それがノラです。くつろいでいると言っても同じことですが、なんだかちょっと酔っ払いがグダグダとろれつのまわらない、だらしない様子をみせているような、ノラの音楽はそんなフィーリングに聴こえるんですよね。
いい意味でダルで気怠いリラックス・ムードをノラのピアノ・タッチにもヴォーカル・スタイルにも感じてきて、それをブルージーさとぼくは表現しているわけですが、今回のクリスマス・アルバムでもそんな持ち味は不変です。クリスマス・アルバムというと華やかでにぎやかなものが多いかもしれないですが、ノラのこれはだいぶ印象が違いますね。
だからなんというか日常の生活感覚に根ざしたような、よそ行きじゃない普段着の、人間味のある音楽を、今回もやっぱりノラは聴かせてくれているなと思います。たとえば2曲目「クリスマス・ドント・ビー・レイト」で聴けるホーン・セクションのこの気怠そうでブルージーなグリッサンド・フレーズの決めかたなんか、もうねえ。アレンジはそれをかなり意識したと思います。完全なるリズム&ブルーズ・クリスマスでしょう。
4曲目のおなじみ「ホワイト・クリスマス」とかではばっちりジャジーに決めているノラとバンドですが、エルヴィス・プレスリーが歌った6曲目「ブルー・クリスマス」では、またしてもレイド・バックしたブルージー・ムード満開。ピアノのフレイジングにもファンキーなタッチが目立ちます。
9曲目の「ウィンター・ワンダーランド」が本作収録曲のなかでは最も有名なクリスマス・キャロルでしょう。ノラはふだんの姿勢をくずさず、やはりやや仄暗くスモーキーな発声で自身の世界に引き寄せているのがいいですね。決してクリスマスらしい祝祭ムードじゃありませんが、こういうのもまたよし。
ローリング・ストーンズのキース・リチャーズもソロでやった11曲目「ラン・ルドルフ・ラン」は、なんとラテン・ブルーズなクリスマス・ソングになっています。コンガなどパーカッションの音が聴こえますが、それもブライアン・ブレイドかもしれません。ピアノが短い定型リフを反復しつつ、ソウルフルなオルガンもまじえ、ブルーズ・リック満載でノラが歌うのも、快感です。
(written 2021.10.17)