ラテンに解釈したホレス・シルヴァー 〜 コンラッド・ハーウィグ
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Conrad Herwig / The Latin Side of Horace Silver
Astralさんに教わりました。
ラテン・ジャズ・トロンボーニスト、コンラッド・ハーウィグの『ザ・ラテン・サイド・オヴ・ホレス・シルヴァー』(2020)。78分。大作ですよねえ。うげぇ〜。しんどい。最近はアルバムの長さが70分を越えているのをみると、もうそれだけでつらく感じちゃいますが、なんとか聴きました。
『ザ・ラテン・サイド・オヴ・ホレス・シルヴァー』はライヴ・アルバムで、バンドの編成はボスのトロンボーンのほか、トランペット、テナー・サックス、アルト・サックス&フルートの四管+ピアノ、ベース、ドラムス、コンガのリズム・セクション。2、3、8曲目ではゲストでミシェル・カミロ(ピアノ)が参加しています。リズムがにぎやかだから複数のパーカッショニストがいるんじゃないかと、最初聴いたときは感じていました。管楽器奏者なども手が空いているあいだ小物を叩いているのかも。
コンラッド・ハーウィグはもうずっと「ラテン・サイド」シリーズを続けていて、25年にもなるそう。だから一種のライフ・ワークですよねえ。マイルズ ・デイヴィスやジョン・コルトレインなど、名の知れたジャズ・ミュージシャンたちの曲をラテン・アレンジで再解釈するということをずっとやってきているみたいです。Spotifyにあるのはホレスのと、コルトレイン、ウェイン・ショーターと、それだけ(なんでや?)。
今回はホレス・シルヴァーが題材ということで、しかしホレスのばあいはマイルズとかトレインなどほかのひとたちと違って1950年代からラテン香味のあるオリジナル・ソングをたくさん書いているし、そんなアルバムだってあって、もとからアフロ・キューバンなテイストの濃いジャズ・ミュージシャンだったとも言えるわけで、そのホレスのラテン解釈といったってなにをいまさら、との第一印象がありました。
がしかしコンラッド・ハーウィグの解釈を聴いてみたら、これはこれでけっこう楽しいのでうれしくなっちゃいましたね。特に新しい世界だとか斬新な容貌をみせているだとかいうことはないなあとは思うんですけど、ラテンなリズムをいっそう強靭化して、ぐいぐいとパワフルに迫るバンドの演奏は、文句なしに心地いいです。
1曲目「ニカズ・ドリーム」から楽しさ全開ですが、もっとよくなるのは2曲目「ソング・フォー・マイ・ファーザー」と3曲目「ザ・ガッズ・オヴ・ヨルバ」。これらにはゲスト・ピアニストとしてミシェル・カミロが参加。その弾きまくりラテン・ピアノがもう絶品なんですね。だからこれら二曲での最大の聴きどころはなんといってもミシェルのピアノ・ソロ。サルサなタッチも色濃く混ぜ込みながらブロック・コードでがんがん弾く迫力に、思わずのけぞりそうになっちゃいますね。
ミシェル・カミロのラテン・ピアノ弾きまくりに大興奮のそれら二曲のあと、ミシェルはもう一曲アルバム・ラスト8曲目「ナットヴィル」にも参加していて、でもここではそれほど聴かせるピアノを弾いていません。むしろ管楽器奏者たちのソロと全体のアンサンブルに重点が置かれているという感じでしょうか。ミシェルはむしろ脇役にまわって支えているあたりにうまあじを発揮していますよね。
これら以外のアルバム中盤の曲でもピアノ奏者(ビル・オコーネル)がけっこう活躍していて、なかなかいいぞと思える内容です。サックス二本のソロはうねうねジャジーでそれもいいし、二つあるバラード調のものがちょっぴりボレーロっぽいフィーリングをくゆらせたり、「ザ・ケープ・ヴァーディアン・ブルーズ」はもとからああいった曲ですから想像の範囲は超えていないんですけど、それでも聴けば十分楽しい内容です。
ストレートなラテン・ジャズ・アルバムで、いまの新世代ジャズがラテン・リズムを取り込みながら伸縮自在の柔軟な演奏を聴かせたりするものとは違う、オーソドックスな作品でしょうし、テーマ合奏〜ソロ・リレー〜テーマ合奏という、これも従来的なフォーマットをそのまま踏襲していて、目新しさ、ジャズとしての新時代性みたいなものは聴きとれないですけどね。
(written 2020.10.5)