パウロ・フローレスのセンバ・ビートが戻ってきた 〜『In Dependência』
(4 min read)
Paulo Flores / In Dependência
リリースはAstralさんのブログで知りました。
シリアスな社会派の歌詞は、そのまま深刻な音楽に仕立てあげちゃダメ。快活なメロディやサウンド、浮き立つような陽のリズムでもって表現しないと値打ちがないというもの。マーヴィン・ゲイの『ワッツ・ゴーイング・オン』にしたってそうだったじゃないですか。
その意味ではプロジージョとの共作プロジェクト、エスペランサ名義で昨年暮れに発売されたパウロ・フローレス(アンゴラ)の前作は失敗作でした。全編が沈鬱なムードで貫かれていて、あれじゃあね、ぼくは一回聴いてそれも途中で放り出しました。聴き続けることなどとても不可能に思えました。
しかしここにパウロは起死回生のふたたびの傑作を届けてくれたのです。新作『In Dependência』(2021)。「独立」とのタイトルですが、アンゴラ独立46周年という微妙なタイミングでこのタイトルを持ってきたあたりにパウロならではの複雑な心境を読みとることができますね。
そういったこともふくめ、社会的にどういった意味合いを帯びた作品なのか?といったことはbunboniさんがぜんぶきれいに書いちゃったので、みなさんそちらをご参照ください。実を言うと、この記事を待っていたのです。
音楽的には、未来を見据えたような明るく快活な曲調の<陽>のセンバが目立つのが、個人的にこのアルバムのポイントが高くなるところ。といっても旧ポルトガル圏独特の哀感(サウダージ)がしっかり込められているんですが、前作みたいにグルーミーさ一色で塗りこめられているのではないところが、音楽作品としては好ましく、評価が高くなるところです。
センバ・ビートの音楽的力強さが前面に出ているというのが、今回の新作『In Dependência』でぼくが抱いた最大の印象。それは1曲目「Heróis da Foto」からしてわかりますよね。曲調というかメロディ・ラインは独特の哀感ただようものなんですけど、ビートの効いたリズムがなんといってもチャーミングです。
その後、2曲目「Bem-Vindo」などのゆったり系は個人的にイマイチなんですが、3曲目「Semba Original」でふたたびビートが戻ってきていい気分。そしてアルバム中特にオッ!と思ったのは5曲目「Jeito Alegre de Chorar」。これこれ、これですよ、これこそパウロ・フローレスのセンバです。本領発揮。多幸感に満ちたムードで、どんな内容の曲かは知りませんが、このビートの効いた快活さ、陽のセンバが胸にグッときます。
同様に6曲目「Amanhã (11 de Novembro)」も最高。力強いセンバ・ビートの躍動感が空気を震わせているといった雰囲気で、なんともいえず心地いいですね、音楽的には。5曲目同様、ストリングスの使いかたもパウロならではのマナー。こういう音楽こそ、ぼくがパウロに求めているものなんですよね。
アルバム・ラスト10曲目「Roda Despendida de Semba」は、今作の集大成的な白眉の一曲。サウダージあふるるメロディ・ラインや曲調を、この強力なノリの効いたセンバ・ビートにくるんで届けてくれるっていうのが、なんともいえずうれしくて、これだよこれ、こういったセンバをやるときのパウロ以上の音楽家が、いまアフリカにいるのか?と思っちゃうほどです。
(written 2021.6.14)