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往年の歌謡曲 in ナマ、リヴィジティッド 〜 野口五郎

(3 min read)

野口五郎 / GORO Prize Years, Prize Songs 〜 五郎と生きた昭和の歌たち〜

野口五郎の『GORO Prize Years, Prize Songs 〜 五郎と生きた昭和の歌たち〜』(2010)。ちょっとアルバム題長いですよね。もっとシンプルなほうがよかったような気もしますが、それはさておき、このタイトルはかつての音楽賞全盛時代の歌謡曲ヒッツの数々という意味ですよね。それを五郎のデビュー40周年記念の2010年に歌いなおしたカヴァー集ということでしょう。だれのいつごろの曲ということを注釈しておく必要のないものばかりです。

昭和だとか音楽賞だとかいったことがどうでもいいぼくですけれども、ともかく往年の名曲揃いであることは間違いないです。プレイリスト『山口百恵 やまぐちももえ』で五郎の歌う「横須賀ストーリー」がいいなと思い、ひもをたぐってこのアルバム『プライズ・イヤーズ』にたどりついて以来、もうすっかり愛聴しているヘヴィ・ローテイションになっているんですね。

そうなっている最大の理由は、やっぱり曲になじみがある、よく知っているものばかりだからということにあるでしょう。ジャズにはまる前の時代にテレビの歌番組で頻繁に聴いたものばかりで、ここでの2010年の五郎の歌で聴いてなつかしいと思うかどうかより、曲がいいですよ、なんといっても。だれも音楽の新曲を発表しなくなるなんてことはありませんが、それでも歌謡曲全盛時代の、あのころの、曲の秀逸さといった事情はあるんじゃないかと思わざるをえないです。

さらに五郎のこのアルバムで際立っているのは、演奏がナマナマしく生きているということです。だから上に乗る歌手のヴォーカルも躍動しているわけですが、三原綱木&ザ・ニューブリードの生演奏一発収録なんですね。どうりでたまにほんのかすかにテンポがゆれたりするわけですよ。でも人間のナマの身体性が刻み込まれたこのオーケストラ演奏には、それでしか聴けないグルーヴ、コク、うまあじがあります。

ひょっとしたら五郎の歌もニューブリードの演奏との同時一発収録だったんじゃないかと思えるほどなんですけど、もはやいまどきありえないライヴな収録方法で演奏と歌のナマの息吹をパッケージングしようとした製作陣の目論見はみごとに成功しています。演奏にも歌にも艶と色気があって、これだよこれ、こういった音楽を聴きたかったんだよ、と膝を打つような心地よさがこのアルバムにはあります。五郎の声も甘くていいですね。

収録曲について解説する必要などないと思います。アルバム出だしの「また逢う日まで」「さらば恋人」「魅せられて」の三連発で序盤からノックアウト。中盤でじっくり歌いこむように聴かせたかと思うと、後半ふたたびのグルーヴァー「雨の御堂筋」「危険なふたり」「横須賀ストーリー」で魅了します。全曲のアレンジはいずれもオリジナルにほぼ忠実で、オーケストラも生演奏で一発収録したことといい、なにもかもあいまって黄金時代の、ナマの、歌謡曲世界の再現を試みた充実作です。

(written 2020.6.4)


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