ブームのさなかでカリカチュアライズされたシティ・ポップ 〜 大貫妙子
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大貫妙子 / 朝のパレット
「♪ほしいものは異国のアロマ〜♫」と、しかもその「マ」でパッとおしゃれに転調するあたりといい、全体的になんだかパパッと朝飯前みたいにつくりましたっていうお手軽シティ・ポップに聴こえないでもない大貫妙子の新曲「朝のパレット」(2022)。配信オンリーです。
前も言いましたが、個人的にはずっと長いあいだ妙子の音楽にさほどの興味を持たず、最近ようやくちょっと聴くようになったのだって原田知世が二曲ほどカヴァーしていたからこそで、それがなかったら妙子をクリックしてみる気にならなかったかも。
もちろん近年の世界的なシティ・ポップ・ブームなんかとは無縁でいるわけで、ブームだからと立役者のひとりである妙子に目を向けたわけじゃありません。もちろん知世の音楽がそもそもシティ・ポップじゃないかというのはそのとおりですし、おしゃれで都会的に洗練されたジャジーな音楽が好きな性分なのも間違いありませんが。
ともあれ新曲「朝のパレっト」は、ひょっとして妙子自身近年のシティ・ポップ再興を受けて、それをかなり意識した上で、んじゃこんなのはどう?こういうのがブーム再来だというシティ・ポップのスタンダード・スタイルでしょ、自分にとってこれくらいなんでもないんですよっていうような、いはばカリカチュアとして成立しているものなんじゃないかという気がします。
軽いボッサ・ビートに乗せて、ジャジーでおしゃれに展開するメロディとコード進行とサウンド・メイク。歌詞なんかはステレオタイプなありきたりのフレーズをテキトーにつなげただけのもの。出汁をいちから自分でとってしっかりつくった料理じゃなく、スーパーで買ってきたお惣菜を三品ほど食器だけ替えてささっと食卓に並べたような、そんなお手軽さ。
あまりにも「らしさ」が徹底的に追求された半端ないスタンダード感満載なので、聴いているとかえってこっちが気恥ずかしくなってくるくらいです。
シティ・ポップ・ブームまっただなかだからこそ出現しえた、ブーム・メイクの張本人による「これがシティ・ポップだ!」という宣言みたいなもんで、この種の音楽の特徴をつかまえて誇張した典型表現といえますね。
でも、聴いているとそれなりに心地いいです。
(written 2022.3.7)