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自分の世界をみつけたアントニオ・ザンブージョ 〜『声とギター』

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Antonio Zambujo / Voz E Violão

もとからファド歌手でもないようなつぶやきヴォーカルのアントニオ・ザンブージョ(ポルトガル)ですからぁ、声とギターだけでジョアン・ジルベルトを意識したような作品をつくるのは自然な流れというか時間の問題ではありました。

そう、このアントニオの九作目にあたる新アルバム『Voz E Violão』(2021)は、ジョアンを意識したアルバム題どおり、基本、声とギターだけの弾き語り作品なんですよね。そ〜れが、かなりいい!ぼくはおおいに気に入りましたね。特に冒頭三曲あたりでのあっさりさっぱりしたテイストは、なかなかほかの歌手では得がたい味だと思います。

1曲目なんかでも、このさわやかなメロディの動きをこうしてみずからの弾くギター伴奏だけでさらりと歌ってみせるアントニオの妙技に、なんとも感心します。1曲目はちょっと涼感すらあるこのさわやかさっぱり風味、どんなジャンルの歌手でもなかなかここまで味わい深く歌えるものじゃないですよ。

そういう心地よさが3曲目あたりまで続くんですけど、軽みっていうかあっさりテイストは、近年世界のヴォーカル界で主流になってきているんじゃないかとぼくにはみえていて、アントニオのこうした歌いかたもそんな時代の潮流にうまく乗っているなと思えます。日本の演歌界なんかでも「こんなのは演歌じゃねえ!」と言われたりする若手歌手が大勢いたりしますが、時代の変化に旧体質な聴き手がついてこれていないだけ。

ボサ・ノーヴァ、フィーリン的なふわっとした軽快な、クールで感情の抑制の効いたヴォーカル表現が、世界で主流となってきているいま、ポルトガルでアントニオがこういう歌いかたをして、こうしたジョアン・ジルベルト的なアルバムをリリースすることだって、必然的な帰結だと思えます。

フィーリンといえば、このアルバムには8曲目にキューバのフランク・ドミンゲスの「Tu Me Acostumbtaste」があるわけですが、これなんか、ホントにアントニオの資質にぴったり合致していて、最高ですよね。このやわらかいソフトでクールなヴォーカル、これこそこの歌手の持ち味で、それを活かせるレパートリーを歌ったなと実感できます。

MPB的というか、カエターノ・ヴェローゾの10曲目「Como 2 E 2」なんかもピッタリ似合っているし、またたぶん一部のみなさんはウゲ〜と感じるかもしれない7「モナ・リーサ」もぼくには心地いい。

ナット・キング・コールのヴァージョンが好きだから、っていうのもありますが、それ以上にここでのアントニオの解釈は決して甘くない、フィーリングのコントロールの効いたさっぱりテイストで仕上げてあって、アルバム中前後と違和感なく聴こえ、全体の統一感を乱していないからですね。

(written 2021.7.7)

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