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昇竜の刻印 〜 MTVアンプラグドのマライア・キャリー ’92

(6 min read)

Mariah Carey / MTV Unplugged EP

きのうマライア・キャリー・ヴァージョンの「アイル・ビー・ゼア」を絶賛しましたが、そう、それが収録されているマライアのライヴ・アルバム『MTV アンプラグド EP』がぼくは超大好き。

もう好きで好きでたまらず、マライアでいちばん聴くのはこれですし、個人的マライア最高傑作でもあります。いままでも一度か二度強調してきたことなんですけれども、きのう「アイル・ビー・ゼア」を聴きなおしたら、ふたたびたまらない気分になってきました。

たくさんあるMTVアンプラグド・アルバムぜんぶのなかでも最愛好作品なんですけど、そんな音楽ファンあまりいないでしょうね。一般のマライア・ファンだってそういうこと言っているひといないみたいだし。でもぼくのアンテナというか嗜好というか、なにか琴線に触れるものがあるんです。

マライアの『MTVアンプラグドEP』は1992年3月16日にニュー・ヨークにおきスタジオ・ライヴ形式で収録され、同年6月に発売されました。キャリア初のライヴ・アルバムだったのはもちろん、全作品でみても大ブレイクした二作目『エモーションズ』が91年9月のリリースだったのに続くもの。勢いに乗っていた時期です。

そんな上げ潮ムードは、MTVアンプラグド・ライヴ1曲目の「エモーションズ」から全開です。アルバム『エモーションズ』でも1曲目のタイトル・ナンバーだったものですが、このアンプラグド・ライヴには曲を書きプロデュースした中心人物、デイヴィッド・コール(C+C ミュージック・ファクトリー)が、これだけ、ピアノで参加しています。

スタジオ・ヴァージョンは1990年代らしい打ち込みビートを軸に据え、エレクトロなサウンド・メイクの上でマライアが飛翔するものでした。アンプラグド・ライヴでは、それらすべてをアクースティックな生人力演奏に置きかえているんですが、そ〜れがもう絶品ですよね。

コールのピアノ(といってもデジタル・ピアノの音ですが)に続きゴスペル・クワイアふうのコーラスが入ってきて、本編前のテンポ・ルバート部ですでに「これはスペシャルなものだ、なにか違う」との感を強くしますね。異様な雰囲気が漂っているでしょう。マライアの声も最高に伸びています。

ドラマーのスティック・カウントでアップ・テンポのビートが入ってきたら、もうノリノリの夢見心地。コールのピアノ演奏がバンド全体をぐいぐい牽引しているのがよくわかりますが、コーラス隊もふくめアレンジ/プロデュースもやったはずです。合奏によるキメなど細かなリフが効いていますからね。

ふわっとしたさわやかで軽快なノリを持っていたスタジオ・ヴァージョンとやや趣きを異にし、このアンプラグド・ライヴの「エモーションズ」はずしりと重心が低く、ずんずん迫るヘヴィなグルーヴ感。中高域はもちろん、低域でもドスを効かせてうなるマライアのヴォーカルにも鬼気迫るものがあります。

個人的にはスタジオ・ヴァージョンよりはるかに好きなこのアンプラグド・ライヴの「エモーションズ」、2022年までのマライアのトータル・キャリアでみてもこれこそ最高傑作チューンだったと個人的に信じています。デビューして二年で大ヒットのまっただなかという昇竜の刻印がここにはあります。声にそれを感じることができるはず。

アルバム全体は、そんな「エモーションズ」に似たビートの効いたアップ・ナンバーと、堂々とした歌唱力で説得するお得意のバラード系との二種類が並んでいますが、オープニングの「エモーションズ」の圧巻に続く絶品パフォーマンスは、やはりきのう書いた6曲目「アイル・ビー・ゼア」でしょう。

このジャクスン5ナンバー以外はそれまでに二作あったオリジナル・アルバム収録曲で占められていますから、「アイル・ビー・ゼア」はこの日のために用意されたスペシャル・メニューだったんだとわかります。

冒頭のピアノ・イントロから、チェレスタを使っていたジャクスン5ヴァージョンをほぼそのまま踏襲していますが、マライアの声だってマイケルを強く意識したetherealなもの。まさにこの英単語がこの曲でのマライアの声を形容するのにピッタリだと思うんですよね。まさに天上の声。

オリジナルではジャーメインが担当していたパートをここではトレイ・ローレンスが歌っています。トレイによるサビが終わってAメロに戻ったときのマライアの声のハリと歌いまわしがこりゃまた降参ものの絶品さ加減で、説得力があって、とろけちゃいますね。

(written 2022.1.9)

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