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マット・ラヴェルのデビュー作には黒人音楽要素&ラテン色がある

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Matt Lovell / Nobody Cries Today

萩原健太さんに教えていただきました。

まったく知らないマット・ラヴェルというアメリカ人シンガー・ソングライター。ナッシュヴィルを本拠としているそうです。そのデビュー作『ノーバディー・クライズ・トゥデイ』(2020)を健太さんに教えていただいて、聴きました。なかなかいいですよね。

マットは生まれが南部らしいんですけど、いつごろからナッシュヴィルで活動しているんでしょうねえ、同地の音楽家らしいカントリー色が濃いのかというとそんなこともなく、ブラック・ミュージックっぽいもの、カリブ/ラテン系とか、たった31分のアルバムながら、多彩です。

マット・ラヴェルのこのデビュー作でも、個人的にはやっぱりソウル、うんホワイト・ソウルですか、それっぽいものとか、それからラテン色とかに惹かれます。オーガニックでアクースティックな音像感もきわだつこのアルバム、そのへんは現代アメリカン・ポップスの大きな潮流の一つなので、ぼくも聴き慣れています。

アルバムでは、たとえば2曲目「90 プルーフ」。これなんかソウル・ナンバーっぽい曲調ですよね。こういうの、大好きです。あ、そういえばブルーズなんかでもアメリカ黒人がやるのはもちろんステキだけど、UK白人ロッカーがやったりするのがあんがいもっと聴きやすいしわかりやすいかもと思ったりするというぼくの嗜好は、ソウルについても言えることなのかもしれません。

さらに、6曲目のアルバム・タイトル・ナンバー「ノーバディー・クライズ・トゥデイ」。これなんか完璧なブルー・アイド・ソウル(死語?)じゃないでしょうか。大好き。ハチロクのリズムで、ちょっとゴスペル・ミュージック・ライクな雰囲気もあって、いやぁいいなあこれ。やわらかいエレピの音色とハモンド・オルガンのサウンドもたまりませんが、なんといってもソング・ライティングが光っています。

こういった、ソングライターとしてなかなかいいぞ、このマット・ラヴェルというひとは、というのは、ラテン色が強く出た曲でも言えます。たとえば7曲目の「ディメ・アディオス」。曲題もスペイン語ということでラテン・ミュージックっぽいのかと想像して聴いたらビンゴ。女性歌手をゲストに迎えて二人で歌っていますが、ちょっとメキシカン・テイストな曲ですよね。

ところでですね、前から疑問に感じていることをちょっと付記しますが、いつもお世話になっている萩原健太さんのブログ、だれのどんな音楽の記事でも、ラテン傾向のことにはいつもまったくノー・タッチ。アメリカ合衆国の音楽には抜本的に抜きがたく中南米カリブ要素が渾然一体化して溶け込んでいて、ひじょうにしばしば表面に出てくるのに、健太さんはいつもひとこともないんですよね。『マット・ローリングズ・モザイク』の1曲目なんか、あんなに鮮明なキューバン・アバネーラはないと思うほどだったのに、やっぱり言及なし。あたりまえのことだからかなあ。

それはおいといて。マット・ラヴェルのきょうのこのアルバムでも、7曲目の「ディメ・アディオス」に続く8「ザ・ゴスペル」にもかすかなラテン香がただよっているように思います。アコーディオンの入りかたなんかは完璧にテックス・メックスふうじゃないですか。曲のメロディだってちょっぴりラテンだし、サウンドだって。

マット・ラヴェルは南部の出身なんでしょ。いまはナッシュヴィルで活動しているとはいえ、そういった出自や生育環境が、黒人音楽的&ラテン音楽的っていうこのデビュー・アルバムのちょっとしたアナザー・サイドに影響を与えている可能性だってあるかもしれませんよね。

いや、むろん、そんなこと関係なくたって、アメリカン・ポピュラー・ミュージックにそれらは必然的に混じり込む不可欠な要素なものだから、っていうことでもあるんですけどね。

(written 2020.10.21)

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