クライマックスは「M」〜 岩佐美咲「右手と左手のブルース」特別盤のカップリング曲を聴く
(5 min read)
去る10月22日に岩佐美咲「右手と左手のブルース」特別盤AとBが発売されました。表題曲はもちろんそのまま。カップリングの三曲だけがあらたなものですから、それらについてちょっとだけ短くコメントしておきます。
今回のカップリング曲三つとは、「糸」「ETERNAL BLAZE」「M」。それぞれ初演は中島みゆき、水樹奈々、プリンセス プリンセスです。もうそりゃだれにとっても最大の注目だったのが「糸」ですよねえ。このカップリングが発表されたときから話題になっていました。
「糸」にかんしては、2017年にも一度CD収録されて発売されており、それがも〜う超絶的にすんばらしいと、ファンのあいだでは意見が一致しております。美咲自身のギター弾き語りヴァージョンなんですけど、今回はたぶんオーケストラ伴奏であらたに歌も録りなおして、ということですから、さてどうなるか?おおいに注目されていました。
結論から言えば、今回の「糸」は2017年ヴァージョンを下回るできばえとなってしまっているようにぼくには聴こえます。新ヴァージョンももちろんすばらしいし、そもそも中島みゆきの歌と美咲の相性がかなりいいんだというのも実証されていますが、「糸」にかんしては2017年ヴァージョンがあまりにもすばらしすぎたという、そのせいで新ヴァージョンはちょっとだけ聴き劣りしてしまうように思います。
その最大の原因はやっぱり伴奏ですね。2017年のがギター弾き語りだったのに対し、今回の新ヴァージョンではまずピアノ(+アクースティック・ギター)の伴奏が中心。2コーラス目からドラムス伴奏やオーケストラも入ってドラマティックにもりあげますが、ぼくのみるところ、この「糸」という曲は淡々と地味なアレンジでやったほうが曲が映えるような気がします。
美咲の歌唱そのものは決して聴き劣りしない内容だと思うんですけれども、このバック・アレンジのおかげで、実は素人っぽく訥々とやったほうが似合う曲である「糸」にかんしては2017年ヴァージョンの弾き語りのほうが、全体的にレベルが上であると言わざるをえません。
あれだけのものを残しておいてたった三年でもう一回録音しなおすという、製作陣の判断にも疑問符がつきますね。超えていっていないと、ファンのみんなも納得しないわけですから、ある意味無謀な挑戦だったなと思います。この新ヴァージョンではじめて美咲の「糸」を聴くというかたがたには、じゅうぶん感動的でしょうけどね。
「ETERNAL BLAZE」と「M」の二曲については、実はあまり知らないぼくなのですけど、前者にかんしては水樹奈々のオリジナルそっくりに仕上がっていて、これは製作陣も美咲本人もかなり意識したんだろうなとわかります。水樹奈々は美咲の憧れの存在ですからね。もうちょっと個性を出せたらよかったような気もしますが、それでも曲のよさを、持ち味を、そのまま活かすようにストレートに素直に歌うという美咲のやりかたは発揮されています。
「M」については、あきらかに今回の美咲ヴァージョン、プリンセス プリンセスのオリジナルのはるか上をいっていると言えますね。プリプリとそのファンのみなさんにはもうしわけないのですが、歌手の力量というか資質が違うんじゃないでしょうか。声のハリ、艶、伸びやかさなど、美咲はふだん演歌歌手ですから、スムース&ナチュラルな歌唱法といえども、それなりの実力を持ちあわせているわけです。
と同時に、ポップスもすんなりこなすという持ち味の歌手ですから、美咲は。演歌をやり歌謡曲も歌いこなし、ポップスすらもすんなりスムースに歌ってわざとらしくならないっていう、そんな歌手がいま、日本にいったいどれだけいるでしょう?多方面でこれだけムリなく歌いこなせるという意味では、現在のところ美咲が日本でナンバー・ワンなのではないでしょうか。
(written 2020.11.12)