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トロピカルなところはないブラジル人ジャズ歌手 〜 カリーナ・リバーニオ

(4 min read)

Karina Libânio / Nua Face

ブラジルはミナスのベロ・オリゾンチ出身らしい歌手カリーナ・リバーニオ(Karina Libânio)。その2020年作『Nua Face』がなかなかいいです。ミナスということばには、ある種の(否定的?)イメージというか固定観念が染みついてどうしようもなく離れないぼくですが、このカリーナの音楽は、そこからしたら到底ミナス出身の歌手とは思えない内容で、聴きやすく、印象いいですね。もちろんミナス出身といってもいろんなタイプがいるんでしょう。

なんだかジャケットの雰囲気といい、あるいはカリーナ名義の Instagram にたくさん上がっている写真でも、多くが熱帯の大自然のなかでカリーナが野生的に(半裸で)のびのびしているものばかりなんですけど、そんなトロピカルな色調とは裏腹に、アルバムの中身はしっとり落ち着いていて、ある意味暗く、ムーディなジャズ・ソング集といった趣ですね。

ブラジルの歌手であるということすら音だけ聴けばわからないくらいですが、アルバム『Nua Face』全体では、なんというかちょっぴりラテンなシャンソン系ジャズみたいな、そんな雰囲気が濃厚にただよっています。1曲目を聴いただけで、それはわかりますよね。これはジャズのビート&サウンドじゃないですか。そこに香る欧州ふうの毛だるい退廃ムード。歌声もマイルドというか落ち着いたムードです。

2曲目でいきなりキューバ/ラテンに展開、リズムが跳ねていますが、こういったラテン・リズムの活用はジャズ・ミュージックに多いもの。アルバム中ほかの曲でもラテン・リズムが活用されていますが、このカリーナのばあいは欧州ふうの暗さもともなっているのが大きな特色でしょうね。ビートは跳ねていても、楽しく快活な調子にはならず、かえって退廃の濃度を強める方向に作用しているんですね。

だから、カリーナのこのアルバムは、基本ジャズ歌手がやるジャズ・ミュージックでありながら、そこにシャンソンふうなムードと軽いラテン・ビートを混ぜているっていう、そういった音楽でしょうかね。Spotify で聴いていますからバンド・メンバーの編成がわからないんですけど、たぶんドラムス、パーカッション、ベース、ギター、キーボードといった感じでしょうね。そのほか曲によって若干の出入りがある模様。(曲と)ギターはひょっとしてカリーナ本人かも。

アルバムでかなりいいなと思ったのは、やはりアルバム題になっている8曲目。そこまでもずっとしっとりしたジャズ・ソングが並んでいますが、この8曲目もこれまたラテン・リズムを使ってあって、それを奏でるパーカッションがいいですね。曲調はやはり退廃的で暗く、ヨーロッパ的というか(ブエノス・アイレスみたいな)南米の大都市ふうというか。パーカッションとアクースティック・ギター&チェロをメインに据えた曲のサウンドがいいですね。

そしてラストの9曲目、これが相当いいですよ。アルバム中これだけが、やはりジャジーながら、翳のない明るい陽気な調子のビート・ナンバーで、カリーナも男性ヴォーカルとともに歌いスキャットで快活に刻んで、なかなか快調に乗っていますね。ブラシで演奏するドラマーもとてもいい。特に曲が終わる間際のスキャットでの「ちゅっちゅる、ちゅっちゅる」は聴いていてもとても楽しくて、アルバム・クローザーだからぐっと後味がよくなります。

(written 2020.5.10)


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