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衰えたなりに聴けるエレーニ・ヴィターリの2020年作
(3 min read)
Eleni Vitali / Peras' Apo Do I Eleni?
ギリシアの歌手、エレーニ・ヴィターリ66歳。声に衰え著しく引退を発表したハリス・アレクシウのわずか四歳年下ですが、エレーニのほうはそれなりにある程度は喉を維持しているとしてもいいんじゃないでしょうか。2020年新作『Peras' Apo Do I Eleni?』を聴いて、そう感じました。っていうか個人的にはハリのなくなった年寄りの声というのがわりと好きという妙な趣味もありまして。
そう、だからエレーニの声もだいぶ衰えてはいます。2020年作でも低音部から一気に高音部へと駆け上がるような伸びやかさはすでに失われていて、声の張りというか艶みたいなものも弱くなっていますよね。しかしですね、この作品みたいなハードボイルドなレンベーティカ系音楽だと、あんがいこういった枯れた渋めの声質が似合って聴こえるといった面があるんじゃないかと、個人的にはそう思うんですね。
レンベーティカ系作品といいましても、モダン・ライカふうのものも混じっているというか交互に出てくるような感じで、ライカ、あるいはちょっとロックっぽいフィーリングに聴こえるものだってあります。モダン・ライカふうの曲だといまのエレーニの声ではちょっと弱いかなと思わざるをえない面もありますね。たとえば1、3、5、7、9曲目なんかはそうかもしれません。
エレーニの声や歌唱は、それら以外のレンベーティカ系歌謡でもまったく同じなんですけど、曲想や伴奏次第で聴こえかたが変わるもんだなあと実感します。偶数曲のレンベーティカ(からライカへ、という流れがエレーニの本領でしょうが)系のトラディショナルな感じの曲と伴奏であれば、これくらいの声でもまだまだ聴かせる、というかむしろ渋みが曲に似合っているんじゃないかとすらぼくは感じますね。
年齢とともに衰えて張りと艶が弱くなって、ややひなびたような感じになった声質が、レンベーティカみたいな港の酒場の無頼者の音楽にはあんがいフィットするような面があるんじゃないでしょうか。暗く哀しくつらい音楽に聴こえてしまいますが、そういうものを求める心情のときがリスナーにだってありますから。
(written 2020.7.17)