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コラをギターに移植して 〜 デレク・グリッパー

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Derek Gripper / A Year of Swimming

南アフリカはケープタウン出身の白人ギターリスト、デレク・グリッパー。西アフリカのグリオ音楽に魅せられ、特にマリのコラにとりつかれて、コラの演奏を通常の六弦ナイロン・ギターに移植して弾いているという、ちょっといままでにないスタイルのソロ・ギターリストです。アルバム『ア・イヤー・オヴ・スウィミング』(2020)で知りました。

デレクは元来クラシック畑のギターリストらしいんですが、『ア・イヤー・オヴ・スウィミング』では全面的に西アフリカ音楽に挑戦。よく知られたサリフ・ケイタの曲ふたつ、そのほかのカヴァー曲に自作もまじえ、ギター独奏だけでコラの世界を再現せんとしているんですね。

以前から書きますように西アフリカのコラ・ミュージックが大好きなぼくなんで、というかそもそもコラという楽器のあの音色や、全弦開放で弾くあのサウンド、響きなど、もうえもいわれぬチャームを感じ愛聴しているので、それをナイロン弦ギターに移植したらどうなるのか?という興味だけでデレクのこのアルバムを聴きました。

はたして立派なできばえじゃないでしょうか。まぎれもないギターの音だけど、そこにコラのあの世界が透けて見えるような、そんな気がします。コラ演奏を聴いたことのないギター・ミュージック・ファンがこれをどう感じるのかわからないですが、コラのサウンドになじんでいる西アフリカ音楽好きであれば、耳おぼえのあるスタイルのフレイジング頻出で、おもわずニンマリすること必定。

デレクがやってみせるまで、だれもが不可能だと考えていたコラのサウンドをギターに移植する作業は(これまでクラシック・ギターでアフリカ音楽が演奏されることはほぼ皆無だったはず)、西洋のクラシックの伝統と西アフリカのグリオの伝統とのあいだに前例のない出会いをもたらしたのだと言えましょう。

デレクの弾く、サステインが短くアタックの強い乾いたギター・サウンドは、クールな静寂の世界を表現しているし、たしかにアフリカ音楽の風を感じさせるもので、マリや西アフリカのコラ音楽によくなじんでいる耳にだってかなり新鮮に響きます。コラで聴き慣れた世界のようでいて、同時にいままでまったく体験したことのない未知の領域に足を踏み入れているような快感もありますね。

アフリカ音楽やコラに関心のない、アクースティック・ギター・ミュージック好きにもちょっと推薦できるアルバムかもしれません。

(written 2021.2.20)

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