岩佐美咲のギター・ソロを飛ばしたら…
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岩佐美咲 / オリジナルズ
なんでもウワサによればサブスク使いの若い音楽リスナーは、曲中のギター・ソロを聴かずスキップしちゃう、もうそういうのは人気ないんだそうで、しばらく前Twitterのぼくのタイムラインでは話題になっていました。
そのときはほとんどすべて「えっ、それじゃあちょっと...」という熟年ファンや届け手の音楽家サイドが違和感や開き直りを表明していたわけです。(クラシック・ロック由来の)ぎんぎんエレキ・ギター・ソロがとどろきまくるような音楽なんか、もはや時代遅れである、のかどうかはまた別な機会に考えたいと思います。ぼくは好き。
実はある時期以後の演歌もぎゅいんぎゅいんの(つまりファズなど歪み系&サステインなどエフェクターを効かせた)エレキ・ギターと相性がいいわけで、御多分に洩れず岩佐美咲のばあいもそれがいえます。だからその〜、新世代演歌歌手ではあるんですが、古式ゆかしきというか、演歌の従来ステレオタイプに沿ったサウンド・メイクがされているんですね。美咲の編曲はすべて野中”まさ”雄一。
そもそも歌のあいだに(ギターにかぎらず)「聴かせる」楽器ソロがはさまっているっていうような曲のつくり、アレンジ手法がもう古いので敬遠されるようになったという世界的ニュー・スタンダードがあるかもしれませんが、それはそれ、美咲のシングル表題曲全10個から飾ったエレキ・ギター・ソロが聴けるものを抜き出してリストアップしてみました↓
「無人駅」前奏、間奏
「鞆の浦慕情」間奏がまるでジョー・ウォルシュ(「ホテル・カリフォルニア」)
「初酒」(アクギだけど)
「ごめんね東京」間奏(ごく短い)
「佐渡の鬼太鼓」(ほんのちょっとだけ)
「恋の終わり三軒茶屋」(ギターじゃなくサム・テイラーふうのむせぶテナー・サックス)
「右手と左手のブルース」(アクギ)
あんがい少ないというか、ぼんやりした印象としてはもっとたくさんあると思っていました。じっくり検証しなおすと上記のとおりなんですね。このうち、ロック・ギター界隈で多用され一種のイコンのようになった(のは過去の話かもですが)ファズ&サステインの効いたエレキ・ギター・ソロがあるものというと、「無人駅」「鞆の浦慕情」の二つのみ。
う〜ん、たったそれだけか。ぼくの抱いていたのは根拠のない先入見だったんですか。裏返せば「無人駅」「鞆の浦慕情」のパワーは強く、ファンのあいだでも大きな影響を持ってきたということかもしれません。前者はデビュー曲、後者は最大のヒット曲ですから。
「無人駅」ではイントロ出だしのうずまきのようなストリング・アンサンブル(は歌謡界に多い)に続きいきなりぎゅわ〜んとギターが鳴りますから、短いものだけど聴き手へのインパクトが大きいです。間奏のソロは、まずマンドリンふうの弾きかたをするアクギに続き、前奏同様のエレキ・ギター。
これがデビュー・シングルで、いままでの全岩佐美咲活動中最も回数多く歌われているものなわけですから、美咲=エレキ・ギター、というイメージが焼きついてもある意味ムリはありません。
そんなイメージがもっと強烈なのが「鞆の浦慕情」。これの間奏におけるエレキ・ギター・ソロはですね、はっきりいってだれが弾いているのかとても知りたいぞ!と思うほど本格的。スタジオ・セッション・ギターリストがちょろっとお仕事的にやっつけたというような感じではありません。
たとえれば(実は演歌界に多い)イーグルズの曲「ホテル・カリフォルニア」(1976)で弾きまくるジョー・ウォルシュのようじゃないですか。美咲のオリジナル楽曲を聴いていてぼくがいちばん好きな時間の一つ。スキップしたら魅力半減ですよ。
一部識者がときおり指摘してきたような、エレキ・ツイン・リードが炸裂する「ホテル・カリフォルニア」が日本の演歌アレンジにおよぼした影響とその痕跡については、ぼくも一度じっくり考えてみたいとかねてより考えていますが、岩佐美咲という新世代歌手でもこの法則があてはまるのかもしれませんよね。
(written 2022.5.26)
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