これまた新世代クレオール・ジャズ・シンガーの登場 〜 グウェンドリーヌ・アブサロン
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Gwendoline Absalon / Vangasay
bunboniさんに教えていただきました。
これも真夏向きっていう雰囲気がジャケットからプンプンただよってきていますよね、グウェンドリーヌ・アブサロン(レユニオン)のアルバム『Vangasay』(2020)。でも中身の音楽は必ずしも夏向けというわけじゃありません。
どっちかというと都会の夜が似合うようなソフィスティケイティッドなジャズ・アルバムですから、この『Vangasay』くらいジャケットから受ける印象と中身の音楽がかけ離れている音楽もめずらしいかもしれませんよね。最初に接したときぼくが抱いた違和感はそれが原因だったのかも。
都会的に洗練されたジャズ・アルバムといっても1曲目がこんな感じで、親指ピアノだけをバックに素朴に歌っていますから、出だしではピンとこないでしょうけど、これはあくまでプロローグですよね。2曲目からはクレオール・ジャズ路線全開です。ずっと前、同じレユニオンのメディ・ジェルヴィルのことを書きましたがそれとか、それから去年書いた、アンゴラですけどアナベラ・アヤとか、ああいった作品に近い感触があります。
プロデューサー(とたぶん演奏でも)でマルチニークのエルヴェ・セルカルを迎えていることが大きな特色で、レユニオン、マルチニーク、そしてカーボ・ヴェルデなど、世界のアフロ・クレオール音楽を幅広くとりいれ消化したような音楽になっているのはポイント高し。アルバム全編で聴こえるアクースティック・ピアノがエルヴェの演奏でしょうか、実際のサウンド面でもキモになっていますよね。
アルバム6曲目「La Diva de la Morna」は、曲題どおりモルナ(カーボ・ヴェルデ)ですけど、リズムはマロヤ(レユニオン)であるっていうなかなか興味深い一曲。セザリア・エヴォーラに捧げた曲らしいです。冒頭ア・カペラで歌う部分にはあまり感じませんが、リズム伴奏が入ってくる2分すぎごろからオォッ!と思わせます。
モルナとマロヤの合体っていうこれなんかもクレオール・ミュージックをひろく見わたしたグウェンドリーヌとエルヴェの志向が強く出た一曲ですね。あまりジャジーではありませんが、アルバムのまんなかに置かれてちょうどいいフックになっているんじゃないでしょうか。
その前後はクレオール・ジャズ全開。都会の夜のジャズ・クラブなんかで聴けたらいい雰囲気だろうなあっていうものが揃っていて、たとえば8曲目「Fo Pa Krwar」なんかほんとうに洗練されていて気持ちいいですね。グウェンドリーヌのスキャット・ヴォーカルも決まっています。でもストレート・ジャズではなく、リズムにクレオール色が出ているのが特徴で、アルバムの全編そんな感じで進むんです。
グウェンドリーヌは、近年世界中でどんどん生まれつつある新世代のジャズ若手女性新感覚ヴォーカリストのひとりであるに違いなく、そんなムーヴメントがあるんじゃないか、感じることができるんじゃないかとはぼくも以前から書いてきています。昨年のアナベラ・アヤ(アンゴラ)に続き、インド洋のレユニオンからも登場してきたというわけですね。アナベラに比べてグウェンドリーヌの音楽はもっと湿度が高いというのが特色ですけどね。
だから、くどいようですが、返す返すもこのジャケット・デザインじゃないほうがもっとよかったなと思います。このジャケットでは中身(洗練された新世代クレオール・ジャズ)を推測できないでしょう。
(written 2020.9.9)