全体的にニュー・オーリンズっぽいのが好き 〜 A.J. クロウチのカヴァー集
(4 min read)
A. J. Croce / By Request
萩原健太さんに教わりました。
もはやジム・クロウチの子という枕詞も不要なんじゃないかと思えるA. J. クロウチ。そのAJの新作『バイ・リクエスト』(2021)は、このタイトルからもちょっぴり察せられるとおりのカヴァー・アルバムで、ギター、ベース、ドラムスのレギュラー・バンドを引き連れてのスタジオ一発録りでベーシック・トラックをライヴ録音したそう。
かなりこなれたパフォーマンスを堪能できるし、AJの真っ向からのルーツ表明作としても興味深い内容。ぼくがなんといっても好きなのは、アルバム全編にわたりニュー・オーリンズ音楽の風味がまぶされているところ。AJ自身の弾くピアノだってまるでドクター・ジョンみたいに聴こえるっていう、そんな部分です。
1曲目「ナシング・フロム・ナシング」(ビリー・プレストン)からして、すでにそんなテイストが濃いめに出ていると思いますね。冒頭のホーン・アンサンブルだってちょっぴりニュー・オーリンズふうですよ。パッとリズムが出た瞬間に転がるピアノ。歌が出てからはほぼストレート・カヴァーに近い雰囲気ではありますが、こりゃいいですね。
3曲目「ハヴ・ユー・シーン・マイ・ベイビー」(ランディ・ニューマン)はブギ・ウギ・ミュージックふうに換骨奪胎してあって、こりゃまたぼく好み。ランディ・ニューマンはAJの音楽に強い影響を与えた存在だと言えますが、このAJヴァージョンのリズム、ホーン・リフが奏でるビート感など、なかなかみごとですよねえ。ピアノ・スタイルはやっぱりちょっとニュー・オーリンズふう。
ファッツ・ドミノ的三連ダダダで弾く4曲目「ナシング・キャン・チェインジ・ディス・ラヴ」(サム・クック)はまったく斬新な解釈でキメています。完璧なるファッツ・スタイルのニュー・オーリンズ・ポップになっていて、サム・クックのあの曲がこうなるなんてねえ、楽しいったらありゃしない。
笑っちゃったのは7曲目の「ステイ・ウィズ・ミー」(フェイシズ)。そのまんまのストレート・カヴァーというかもろコピーなんですよね。まるで高校生アマチュア・バンドがフェイシズを真似して思い切り楽しんでいるとか、そんな雰囲気で、これはこれでなごめます。AJのヴォーカルがちょっとロッド・スチュワートっぽいような。
8曲目「ブリックヤード・ブルーズ」はアラン・トゥーサンがプロデュースしたフランキー・ミラーのヴァージョンがオリジナルだし、アラン自身もやっているというわけで、ここでのAJヴァージョンがニュー・オーリンズ・ポップっぽく仕上がるのも道理です。やっぱりピアノがこれまたちょっぴりドクター・ジョンふうですよね。
やはり大胆にニュー・オーリンズふうにリアレンジされた10曲目「セイル・オン・セイラー」(ビーチ・ボーイズ)も換骨奪胎系で、ブルージーに仕上がっていて好みですし、11「キャント・ノーバディ・ラヴ・ユー」(ソロモン・バーク)も、いい感じの南部ふうな三連ポップ・ビートが効いていて。きょう書かなかった曲にはあまり南部ふうなスワンピーさがないんですけど、全体的に滋味深くできあがった佳作でしょう。
(written 2021.5.24)
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