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イマニュエル・ウィルキンスの暴発 〜『The 7th Hand』

(4 min read)

Immanuel Wilkins / The 7th Hand

現代若手ジャズ・サックス No.1(私見)であるアルトのイマニュエル・ウィルキンス。二作目にあたる出たばかりのニュー・アルバム『ザ・セヴンス・ハンド』(2022)も、ミカ・トーマス(ピアノ)、ダリル・ジョンズ(ベース)、クウェク・サンブリー(ドラムス)という不動のメンバー。

+曲によってパーカッション・アンサンブルが入ったり(2)フルート奏者が参加したり(5、6)ですが、基本は四人編成のワーキング・バンドによってシンプルに演奏されています。なお、1+2曲目、そして5+6+7曲目が曲間のポーズなしでメドレー形式みたいに流れてきますが、編集でしょう。

人種問題をテーマにしていた前作『オメガ』に比べ、全体的にはややおとなしめな演奏ぶりかもと思えますが、イマニュエル以下バンド全員でぐいぐい迫るパッションを聴かせる曲もあり、そういうのはたいそう好みです。

2020年暮れに前作のレヴューを書いたとき、まるでオーネット・コールマンか1965年以後のジョン・コルトレインがアルトを吹いているみたいだと評したはず。時代背景としても公民権運動とBLMムーヴメントという通底項があって、それに突き動かされるようにブロウしている音楽だという印象を持ちました。

そういう部分はきっとイマニュエル・ウィルキンスという音楽家の本質なんだろうと思うんですよね。今作『ザ・セヴンス・ハンド』でも、たとえば1曲目「イマネイション」は思い切り発散しているような演奏ぶりだし、2曲目以後は落ち着いてきますが、終盤の6「ライトハウス」でふたたびハードに。

「ライトハウス」ではイマニュエルもいいけどそれ以上にバンドですね。特にクウェク・サンブリーの手数多く細分化されたドラミングは、まるでなにかに取り憑かれたような一心不乱な激しい叩きまくりっぷりで、これホントどうなってんの?あ、いや、イマニュエルもかなりパッショネイトなブロウぶりです。

そこから切れ目なく続くラストの「リフト」。26分以上とアルバムの大半を占めるこの曲こそ絶対的な白眉。こ〜れが!ビックリ仰天のアトーナルな全面フリー・コレクティヴ・インプロヴィゼイションなんです。途切れない一曲で26分の完全フリー・ブロウなんて、まるでシックスティーズの趣き。いまどきの音楽でこんなの、聴くことなかったですよねえ。

しかも「リフト」には用意されたテーマとかモチーフ、コンポジションやアレンジメントなどいっさいなく、全面的に出たとこ勝負のアトーナル・フリー・インプロで、イマニュエルもまるで坂田明みたいにフリーキー・トーンを乱発し過激に吹きまくり止まらないっていう、ほんとマジなにこれ、どうしたの?

整然としたウェル・アレンジドなものが多く、ソロ展開というよりアンサンブルで聴かせる現代ジャズにおいて、こんな一発勝負のフリーキーなフリー・インプロ・ブロウが、しかもカルテットの全員により26分も続くなんて、いまや相当めずらしいものであるはず。

ステディなビートもなくフリー・リズムで、ドラムスもベースも自由かつパルシヴに演奏しているし、ピアノのミカ・トーマスだって終始鍵盤をフリーキーに殴り続けているんですよね。

こうしたエモーションの暴発が、前作同様BLM的な怒りと抗議の姿勢に支えられたものかどうかはわかりませんが、イマニュエル・ウィルキンスの音楽や吹奏ぶりは、21世紀ジャズにあって比類なき突出ぶりに思えます。

(written 2022.2.1)

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