初期ヘイリー・タックをひとまとめ
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きのう書いたアルバム『ジャンク』(2018)に至るまでにヘイリー・タックが発売していたシングルや EP などを一個にまとめてみたのが上のプレイリストです。もうすっかりお気に入りの歌手になっていますし、ヘイリーの歌と音楽性が好みにぴったり合致するんです。こういった初期ヘイリー・タックもかなりいいですよね。
アルバムで本格デビューする前の作品ですけれど、聴けば音楽性はすでに同じものがあって、しかも完成されています。カヴァー曲を中心にしながらいろんな過去の(ジャズとは関係ない)楽曲を幅広くとりあげ、それをレトロでヴィンテージなジャジー ・ポップスに仕立て上げているというわけですね。しかしそれでもアルバム・デビュー後にはほぼなくなってしまった傾向だって読みとれます。
それはジャズ歌手やジャズ演奏家もよくやるスタンード曲がそこそこ混じっているということ。「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ポルカドッツ&ムーンビームズ」「ソー・イン・ラヴ」「ウェン・イッツ・スリーピータイム・ダウン・サウス」「マイ・ハート・ビロングズ・トゥ・ダディ」がそうです。さらに(ジャズじゃないけど)「クロース・トゥ・ユー」(カーペンターズ)「ワッツ・ラヴ・ガット・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット」(ティナ・ターナー)も有名曲で、スタンダード化していると言えるでしょう。
こういったスタンダード・ナンバーを歌うときのヘイリーは、しかし必ずしもジャジーなアレンジを施しているわけじゃないのかもしれません。「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」なんかにはジャジーな雰囲気が聴きとれないし(むしろロックっぽいポップさ)、「ポルカドッツ&ムーンビームズ」はジャジーというよりリズム&ブルーズ系のブルージーなムードが漂っています(特にこのエレピ)。
ところでこのヘイリー・タック・ヴァージョンの「ポルカドッツ&ムーンビームズ」がぼくはかなり好きなんですけど、いいですよねえ。上でも触れましたがエレピのやわらかいサウンドでブルージーな演奏をしているのにマジでグッときてしまいます。三連ノリのリズム&ブルーズふうのリズムもいいですよね。ドラマーはここでもブラシです。このエレピはほんとだれが弾いているんでしょう?ムーディなテナー・サックスもグッド。
「ソー・イン・ラヴ」なんかもジャズ系の音楽家がよくやりますが、これも強いビートを付しロックっぽい感じにアレンジしてあります。と思えばジャジーに聴こえる瞬間もあって、ヘイリーのヴォーカルはどの曲でも一貫してふんわりとドリーミーだからジャズ歌手っぽい響きをかもしだしてはいます。「ウェン・イッツ・スリーピータイム・ダウン・サウス」なんかは、いまや演奏するひともいなくなったニュー・オーリンズ・ジャズ・スタンダードで、ヘイリーはチェレスタ伴奏で歌っています。
エラ・フィッツジェラルドの歌でも知られている「マイ・ハート・ビロングズ・トゥ・ダディ」ではラテンな味付けが鮮明で、これもかなりいいですね。レトロなヴィンテージ・ジャズふうのサウンドはほぼなし。ドラマーががちゃがちゃとにぎやかなラテン・リズムを叩き入れているのがこの曲の最大の特徴で、ピアノはじめほかの楽器もそれにあわせてリズミカルに演奏して、ラテンなムードをもりあげています。ちょっぴりタンゴっぽいかもですかね。
おととい、きのうと書いてきたことも踏まえると、どうもヘイリー・タックはジャズとは関係ないような、ジャズのフィールドにはなかったような、そんな曲をとりあげるときはヴィンテージ・ジャズふうに料理して、ジャズ歌手もたくさん歌ってきているような曲だとジャジーなアレンジを施さないという、そういった傾向があるのかもしれないですね。スタンダードですけど「クロース・トゥ・ユー」「ワッツ・ラヴ・ガット・トゥ・ドゥ・ウィズ・イット」ではジャズ・ナンバーふうに料理してありますからね。
(written 2020.5.24)